1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在は日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄が、ラウンド中に話題になる「ゴルフの奥深い知識」を綴るコラム。第72回目は、ゴルフ場設計の歴史的な変遷と、巨匠たちがコースに仕掛けた「ダイアゴナル(対角線)」や「リスクとリワード」といった設計思想の仕組み、そしてそれらを知ることで得られるゴルフの本当の面白さについて。

ゴルフ場設計がたどった「4つの時代」と先駆者コルトの功績

「近代設計の父」とも称されるハリー・コルト

ゴルフ場設計の初期(1800〜1900年代)では、自然の地形を生かしたリンクスが主流だった。1900〜30年代の勃興期になると、戦略性や自然美、動線が確立され、結果として多くの傑作とされるコースが誕生することになる。その時代に活躍したのがハリー・コルトだった。

コルトはゴルフ場設計において、灌漑、肥料、植栽など現代に通じる近代的設計を確立した先駆者でもあった。その後の1950〜80年代はゴルフ場設計の成熟期ともいえる時代で、トーナメントを意識した視覚的効果を重視する設計が増加。そして現代(1990年〜)では、持続性や多様性、環境配慮が重視されるようになっている。

ハリー・コルトが最初に唱えたとされる設計手法に、「ダイアゴナル(対角線)」がある。これは、戦略的なプレーを促すために斜めに配置されたハザードが特徴で、プレーヤーはリスクとリワード(危険と報酬)のバランスを考えてプレールートを選択することになる。

パインハーストNo.2の生みの親、ドナルド・ロス

設計家ドナルド・ロスの傑作であるパインハーストNo.2や、フロリダの海岸線に沿って造られベン・ホーガンが絶賛したセミノールGCなどは、その代表的なコースといえる。また、オーガスタナショナルGCやオーストラリアのランキングで1位を誇るロイヤル・メルボルンGCを手掛けたアリスター・マッケンジーの作品も、ダイアゴナルを意識したコースである。

いずれも、フェアウェイを斜めに横切るバンカーやウォーターハザードが効果的に配され、高い戦略性を誇っている。一方、1900年代初期からチャールズ・B・マクドナルドと組んで活躍した設計者セス・レイナーは、その幾何学的なデザインから『幾何学的コースデザイナー』と称されている。なかでも“ビアリッツ”と呼ばれる正方形や長方形のグリーンが有名だ。

これらの特徴は、マクドナルドと共同設計したニューヨークのロングアイランドにあったリドーCCやイエール大学GCで見ることができ、トム・ドークやギル・ハンスなど、現代の最先端を走る設計者たちにも多大なる影響を与えている。

ゴルフ場の設計要素は以下の3つとなる。
1. フェアウェイ:斜めの配置・ルート選択の多様性
2. ハザード:意図的な配置・リスクとリワードの強調
3. グリーンの傾斜:繊細なアンジュレーション・パッティング難易度の向上

これらが組み合わさることでプレーヤーは技量に応じて最適なルートを選択し、正確なショットをするために戦略的な判断が求められる。

「リスクとリワード」とは、難しいルートを選択して成功すれば報酬(好スコア)が得られ、失敗すればスコアを崩してしまうという概念だ。アリスター・マッケンジーが雑誌の設計コンテスト「理想的な2ショットホール」に応募し、優勝した際のアイデアがまさにこれに当てはまる。

危険を承知のうえで最短距離から攻め、首尾よく2オンに成功すれば報酬が得られ、失敗すれば叩くというデザインだった。攻略ルートとして「最短」と「通常の攻め方」が明確に用意されており、プレーヤーは自分の技量に合わせて選択することができた。マッケンジーのこのデザイン思想は現代でも多くのコースで採用されており、設計における基本的な手法とされている。

画像: バリシアーゴルフリンクス

バリシアーゴルフリンクス

タイの最難関コースとして高い評価を得ているバリシアーゴルフリンクスの18番ホールには、このマッケンジーのアイデアが再現されており、「あなたはどのように攻めるのか?」と常にプレーヤーへと問いかけてくる。

ゴルフは飛距離や技量に加え、風、気温、地形、そして池やバンカーなどのハザードを計算し、考えながらプレーするスポーツだ。だからこそ、設計者の意図を読み解きながら攻略できるようになれば、ゴルフはもっと面白くなるのである。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中。

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