王者の意地を見せた猛チャージと冷静な自己分析
最終日、首位のコイブンと6打差という厳しい状況からスタートしたシェフラー。「逆転するためには、とにかくロースコアが必要だった。フロントナインでさらにスコアを伸ばしてプレッシャーをかけたかった」と、序盤から強い気持ちでコースへと飛び出していった。
実際にはフロントナインは3アンダーに留まり、爆発しきれない展開だったものの、彼は最後まで決して諦めなかった。優勝には届かないと分かり始めても決して集中力を切らさず、バックナインに入ってから怒涛の「5アンダー(31)」を叩き出す。終わってみれば最終ラウンドはボギーフリーの「63(8アンダー)」という完璧なゴルフを展開し、通算22アンダーまでスコアを伸ばす意地の猛チャージを見せた。
しかし、この日もスコアを伸ばし続けたルーキーには3ストローク届かず、単独2位で大会を終えることとなった。シェフラーは今大会を振り返り、「こういう伸ばし合いのコースでは、少しのミスが命取りになる。今週の僕にとっては、金曜のバックナインと土曜のフロントナインでの停滞が敗因だった」と冷静に分析している。不運やコースのせいにせず、自らの勝負所での取りこぼしを敗因として潔く認める姿勢は、まさに王者の品格だ。
若き才能への惜しみない称賛と「まだ見ていない」という衝撃
単独2位という結果は、並の選手であれば十分に喜べる成績かもしれないが、世界1位のシェフラーにとっては「敗北」を意味する。しかし、ホールアウト後の彼の表情に、悔しさや言い訳は微塵もなかった。自身の猛追をかわし、見事に逃げ切った21歳のコイブンについて問われると、若き才能への惜しみない賛辞を送った。

ノーボギーの「63」でラウンドしたがジャクソン・コイブンには3打届かなかったスコッティ・シェフラー(写真は26年キャデラック選手権)
会見で記者から「コイブンと直接話したり、アドバイスをしたりしたか?」と問われた際、シェフラーは「いや、まだ彼とは話していないし、彼がショットを打つところすら生で見ていないんだ。大学での素晴らしい経歴は聞いているから、実際にプレーを見るのを楽しみにしているよ」と答えている。直接プレーを見ていなくても、結果とスタッツだけで相手の才能とメンタルを認め、手放しで称賛できるという点に、王者の余裕と器の大きさが表れている。
「今の大学から出てきたばかりの若い選手たちは、私たちが何年も前にツアーに出てきた時よりも、はるかにしっかりと準備ができているんだ」
現代の若手選手たちのポテンシャルの高さを素直に認め、彼はこう続けた。
「彼らのような若い才能が成功を収めるのを見るのは、ゴルフ界全体にとっても、私たちのツアーにとっても本当に素晴らしいことだと思うよ」
自らを破ったルーキーの台頭を心から喜ぶその姿には、ゴルフ界を牽引する絶対王者としての懐の深さが溢れていた。
初優勝の重圧への理解
さらにシェフラーは、コイブンが最終日に単独首位という大きなリードを守り切って勝ったことの価値を、誰よりも深く理解していた。
かつて自身がツアー初優勝を飾った時はプレーオフでの勝利だったことを振り返りつつ、「大きなリードを持っての初優勝のほうが、おそらく少し楽だろう。でも、初優勝というのはいつでも非常に難しいものだ。大学を出たばかりの若者がそれをやってのけたことは、彼の才能だけでなくメンタルの強さを示している」
リードがある分、僕の時より少しは楽だったかもしれないが、それでも初優勝の重圧に勝ったのは素晴らしいというニュアンスだ。かつて自分も通った道を踏まえ、最大限のリスペクトを送る言葉は、勝者への最高の労いとなった。
敗れてなお光る世界1位の存在感
シェフラーはこの単独2位により、今季11回目のトップ10入り、そして今季5回目(キャリア通算15回目)の準優勝を果たした。圧倒的な安定感と強さで世界1位に君臨し続ける彼だが、その真の魅力はスコアやランキングだけにあるのではない。
自らがベストを尽くして届かなかった時、勝者を心から称え、未来のゴルフ界の発展を喜ぶことができる真のスポーツマンシップ。敗れてなお光り輝くスコッティ・シェフラーのその存在感は、これからも多くの人々の共感を呼び、ゴルフというスポーツの美しさを伝え続けていくだろう。
写真/岩本芳弘

