歴史に残る“7度目”の完璧なホールインワン
ドラマが起きたのは、前半の5番ホール(パー3)。ティーイングエリアに立ったクーチャーが放ったショットは、まさに芸術品だった。
「165ヤードの距離で、9番アイアンで軽いドローをかけたら、本当に完璧な軌道で飛んでいったんだ」
ボールはピンに向かって真っすぐに飛んでいったが、傾斜の影響もあり、ティーイングエリアからはボールがカップに吸い込まれる瞬間を直接確認することはできなかった。ボールが止まったように見え、ティーを拾い上げようと視線を落とした瞬間、グリーン奥のカメラタワー付近にいたボランティアやファンから、割れんばかりの大歓声が沸き起こった。
「見上げたら、もうゴルフボールはどこにもなかった。最高の気分だったよ」
これがクーチャーにとって、PGAツアーにおける「7度目」のホールインワンとなった。公式データによると、これは2005年以降のPGAツアーにおいて、ロバート・アレンビーとスコット・ブラウンが持つ記録に並ぶ「最多タイ」の偉業である。長年にわたり第一線で活躍し続ける彼だからこそ到達できた、歴史的なマイルストーンだった。
【動画】1回でもすごいのに7回も!? マット・クーチャー、05年以降の最多タイとなる7度目のホールインワン!【PGAツアー公式X】
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x.comカシミア君との特別な瞬間
しかし、この日のクーチャーを最も輝かせたのは、記録そのものではなく、その直後に見せた粋な計らいだった。大歓声に包まれながらグリーンへと歩き出した彼は、ロープの最前列で目を輝かせていた小さな男の子を見つけると、歩み寄ってこう声をかけた。
「ヘイ、相棒。一緒においで」
クーチャーは「カシミア君」というその少年をロープの内側へと招き入れると、なんと自分が今まさにホールインワンを決めたカップから、直接ボールを拾い上げるように促したのだ。
「ロープの中にファンを招き入れたのは初めてだったけれど、彼があまりにも無邪気に興奮していたからね。子供の1日を最高のものにしてあげられれば、僕自身の1日も最高のものになる。彼は本当に興奮してボールを受け取ってくれたよ」
最高峰のプレーで魅了し、さらにファンサービスで夢を与える。クーチャーの飾らない温かい人間性が滲み出た、感動的なワンシーンだった。
プロゴルファーとしての喜びと昔話

この日の最終ホールとなった9番で観客に応えるマット・クーチャー。この場も「カシミア君」が見守っていたに違いない
「プロゴルファーという仕事の本当にクールなところは、人々の1日を素晴らしいものにして、時には一生のファンを作れることなんだ」と、クーチャーはプロとしての誇りと喜びを噛み締める。
そんな彼だが、自身が初めてホールインワンを達成した時の思い出は、今回の大熱狂とは少し違ったようだ。彼はベテランらしいユーモアたっぷりに、昔話を披露してくれた。
「初めてのエースはジョンディアクラシックだった。直接カップに飛び込んで、ピンに『ガチャン!』と大きな音を立てて当たったんだ。でも、20フィート先にいたマーシャルが『パンッ』と1回だけ拍手をして、あとはキョロキョロ周りを見渡していた。だから僕は、ボールが林に行ったのか、バンカーに入ったのか全く分からなかったんだよ。僕の初エースの歓声は『拍手1回』だったんだ(笑)」
過去の笑える体験があるからこそ、今回の大歓声と、少年の満面の笑みが、より一層特別なものに感じられたのかもしれない。
ファンとともに戦うベテランの週末
カップからボールを拾い上げたカシミア君は、その後もクーチャーのプレーの虜になっていた。
「彼はその後もずっとついてきて、僕のパットのたびに一緒に息を飲み、一喜一憂してくれていたんだ。本当にクールだよね。これで長くゴルフの、そしてマット・クーチャーのファンになってくれるといいな」
少年の人生に忘れられない思い出をプレゼントし、自身のPGAツアー最多タイとなる歴史的な記録にも花を添えたマット・クーチャー。ファンの心をしっかりと掴んだ愛すべきベテランが、この最高のエースを起爆剤として、熱狂の週末をどう戦い抜くのか。彼に向かって送られる大歓声は、さらに大きく温かいものになるはずだ。
写真/Getty Images
