プロが語る「境界線」のプレッシャー
この絶対的な境界線を前に、選手たちはどのような精神状態で戦っているのか。
現在ポイントランキング65位のブライアン・ハーマン。彼が50位圏内へ滑り込むための条件は「2人タイ以上の8位(T8)」という極めて厳しいラインだが、泥臭く逆転を狙う彼が生々しい本音を吐露した。
「それは本当に難しいことなんだ。PGAツアーのどこにいても、僕たちは常に何かのバブル(境界線)にいるんだよ。ツアー選手権を目指すのか、プレジデンツカップの代表入りを目指すのか、トップ50か、トップ30か、あるいはシード権の維持か、初優勝か……」
トッププロであれば目の前の1打にのみ集中し、ランキングの邪念を振り払えるものだと思いがちだ。しかし、ハーマンはその幻想を否定する。
「ゴルフが本当に面白くて素晴らしいのは、単に優勝を目指す選手だけでなく、15もの異なる目的を持ったトーナメントが同時に進行していることだ。僕はトップ50に入りたいし、トップ30にも入りたい。勝つことも、代表チームに入ることも気にかけている。だから、そういうことを考えないようにするのは無理なんだ。常に考えているから、ある意味ではそのプレッシャーに慣れるしかない」
百戦錬磨のベテランであっても無視できない重圧。それがPGAツアーの過酷な日常なのだ。
崖っぷちで踏みとどまれるか。王者スピースが直面する現実
この「バブルラインの魔力」に、今まさに翻弄されているのが、2015年の年間王者であるジョーダン・スピースだ。
今季、トップ10フィニッシュが一度もないままポイントランク54位でプレーオフに滑り込んだスピースは、2日目を終えた段階では通算6アンダーの5位タイと大健闘。一時はBMW選手権の進出枠を完全に手中に収めていた。
しかし、ムービングデーとなった3日目に「72(+2)」と失速し、14ポジションダウンの19位タイへと一気に後退。現在の予想ランキングは、無情にもバブルの外側である「53位」まで押し戻されてしまった。
スピースが来季のプラチナチケットを掴むための最終日のクリア条件は、「単独23位(Solo 23rd)以上」でのフィニッシュだ。現在19位タイにいる彼にとって、最終日に落とす「たった1打」は、そのままシーズン強制終了を意味する。一瞬の弛緩も許されない極限の崖っぷちで、元世界王者のプライドをかけたサンデーバックナインが始まる。
重圧の渦中にいるイム・ソンジェ
そして今、まさにその重圧の渦中で見事な戦いを見せているのがイム・ソンジェ(任成宰)だ。
大会前ポイントランキング53位の彼が50位枠へ滑り込むための最低条件は「2人タイ以上の24位(T24)以内」。彼は第3ラウンドを終えて通算11アンダーの2位タイへと猛チャージを見せ、当確ラインを大きく上回る好位置につけた。公式の予測データでも、彼は現在圏外から唯一、トップ50圏内(35位予測)への大幅浮上が見込まれている。
喉から手が出るほど欲しいトップ50の切符。それを手繰り寄せるための最終日を前に、彼は静かに語った。
「もちろん自分の順位は知っている。でも、あまり考えすぎないようにしているんだ。ただ各ショットに集中し、忍耐強く自分のゲームに徹するだけだよ」
考えまいとしても頭をよぎるランキング。そのプレッシャーを必死に押し殺し、ルーティンに没頭しようとする姿には、プロアスリートの真の強さが滲み出ている。
1打がキャリアを変える日曜日

左からイム・ソンジェ、ブライアン・ハーマン、ジョーダン・スピース
華やかなリーダーボードの頂点を見上げるのもゴルフの醍醐味だが、その下で繰り広げられる「バブル(境界線)」を巡る死闘もまた、PGAツアーのリアルな姿である。
最終日の18番ホール。誰が安堵の息を吐き50位の枠に滑り込み、誰が1打に泣き弾き出されるのか。選手の人生を懸けた泥臭いサバイバルに注目することで、この日曜日はより一層、非情でドラマチックなものになるはずだ。
写真/岩本芳弘

