ローリー・マキロイらと並び、初日「64」をマークして首位タイに立ったゲーリー・ウッドランド。彼がこの日叩き出した「6アンダー」というスコアは、単なる好調の証ではない。2023年9月に脳病変(brain lesion)の切除手術という生命の危機を乗り越え、「自分の手がどこにあるか分からない」というゴルファーとして絶望的な神経症状から生還した彼が、どれほどの恐怖と戦いながらこの大舞台に戻ってきたか。そして今、最終戦「ツアー選手権(イーストレイク)」への生き残りを懸けたトッププロたちが、華やかなリーダーボードの裏でどのような「プレッシャーと苦悩」を抱えながらプレーしているのか。「BMW選手権」の初日を終え、選手たちがこぼした本音からは、プロゴルファーの極限のリアルが浮かび上がってくる。

ウッドランドの「命の鼓動」と周囲からのリスペクト

会場のベルリーブCC(ミズーリ州)から車で3時間半ほどのカンザス出身であるウッドランドにとって、今大会は「これまでのツアー18年で一番、故郷に近い試合」だという。

さらに、このベルリーブCCは、彼が2018年の全米プロゴルフ選手権で初日に「64」を叩き出し、最終日にはタイガー・ウッズと同組で優勝争いを演じて6位タイに入った場所でもある。ここで世界のトップと渡り合った極限の経験が大きな糧となり、翌年(2019年)の全米オープンにおける悲願のメジャー初制覇へと繋がっていった、まさに彼のキャリアの原点とも言える思い出の地なのだ。

当時の伏線を回収するかのように地の利と大歓声を受け、11番(パー4)での見事なショットイーグルを含め、18ホール中17ホールでパーオンに成功する驚異的なショット力を見せつけた。現在ポイントランキング31位の彼と、最終戦圏内である30位(リッキー・ファウラー)との差はわずか「1.238ポイント」。まさに薄氷の境界線上で、彼は命の鼓動を感じながら戦っているのだ。

【動画】ゲーリー・ウッドランド、初日11番をスピンバックのイーグル!【PGAツアー公式X】

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しかし、彼の戦いはコースの罠やスコアメイクだけではない。今もなお、見えない恐怖との闘いの中にいる。

「今でも治療を受けながら、苦しくなる時がある。そんな時は胸に手を当てて、心臓が動いているかを確認するんだ。『自分は生きている、安全だ』と言い警めるためにね」

彼が明かしたこのルーティンは、単なる精神統一のジンクスではない。手術後も日常的に彼を襲う、突発的な脳や神経の変調、それに伴う死の恐怖やパニック状態(急激な心拍数の上昇など)に対し、物理的に自分の心音を直接手で感じることで、「心臓が動いている、だから息ができている、自分は今ここにいて安全だ」と脳に言い聞かせ、自律神経を強制的に落ち着かせるための、あまりにも切実で壮絶な防衛手段なのだ。

ゴルフのスコアという次元を遥かに超えた場所で、命と向き合いながら戦うウッドランド。先週のメンフィスで、脳腫瘍を患う11歳のニュージーランド人の少年が彼のラウンドについて歩いたという。「自分が戦い続ける姿を見せることで、彼らに希望を与えたい」。それがウッドランドの新たな使命感だ。

画像: 大病から復活したゲーリー・ウッドランド(写真は26年ソニーオープン・イン・ハワイ)

大病から復活したゲーリー・ウッドランド(写真は26年ソニーオープン・イン・ハワイ)

そんな彼の生き様に対し、同組でプレーし初日4アンダー(8位タイ)と好発進した新鋭のラドビッグ・アバーグは、最大のリスペクトを送っている。

「彼がやっていることは、我々全員のインスピレーションだ。ツアーで一番のナイスガイだし、彼が成功する姿を見れば、誰もが全力で応援したくなる」

代表選出と最終戦への切符。トッププロたちの「脆さとユーモア」

ウッドランドが己の命と向き合っている一方で、他の選手たちもまた、それぞれに異なる「見えない重圧」と泥臭く戦っている。

画像: 崖っぷちにいるジャスティン・トーマスは3アンダー12位タイで初日を終えた

崖っぷちにいるジャスティン・トーマスは3アンダー12位タイで初日を終えた

ジャスティン・トーマスは、先週のメンフィスでの週末の不調により「精神的にどん底だった」と明かす。月曜日の練習でも何も掴めず、「コースから逃げ出したいような、最悪の気分だった」という。

かつて代表選考を意識しすぎて自滅した経験を持つトーマスは、現在ポイントランキング44位。2007年のフェデックスカップ創設以来、44位以下から最終戦(ツアー選手権)に滑り込めた選手は過去20年間でわずか2人しか存在しない。さらに30位以内へ入るには今週最低でも「2人による2位タイ以上」という奇跡に近い成績が求められる過酷な現実がある。

「本当にイーストレイクへ行きたい。だから今は、ただ純粋に、まだ今シーズンを終わらせたくないという思いだけでプレーしている」

トップスターのプライドをかなぐり捨てた、執念である。

一方、ウッドランドらと同じく「64」で首位発進を決めたJ・J・スパーンは、プロゴルファー特有の「パターの不調」に対するユーモラスな対処法を明かしてくれた。

「不調だった古いLABパターを2カ月間“お仕置き(タイムアウト)”にしていたんだ。子供と一緒で、しばらくお仕置き部屋に入れておくと、言うことを聞くようになるからね。今日はしっかり教訓を学んでくれていたよ」

強烈な重圧をユーモアでかわし、見事に首位タイへと駆け上がった彼のメンタルコントロールもまた、プロの生存戦略の一つである。

重圧と苦悩の先へ。限界に挑むプロの生き様

誰もが常に「Aゲーム(最高の調子)」で戦っているわけではない。病との闘い、メンタルの崩壊、ギアへの八つ当たり。それぞれが人間らしい脆さや苦悩を抱えながら、それでも「最終戦への切符(トップ30)」というたった一つの目標に向かって、限界状況の中で足掻いている。

今週末、わずか30枚のプラチナチケットを手にするのは誰か。華やかなスコアだけでなく、限界状況で見せる彼らの生き様にこそ、注目したい。

写真/岩本芳弘


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