年間王者を決めるPGAツアー最終戦「ツアー選手権」が、アトランタのイーストレイクGCで開幕する。出場できるのは、過酷なシーズンを戦い抜き、ポイントランキング上位30名に入ったエリートのみ。選ばれし30人の中には、初出場に心を躍らせるルーキーもいれば、深い絶望から這い上がってきた中堅、そして誇りを懸けて戦う大ベテランがいる。開幕前の公式会見で語られた、それぞれの「アトランタへの切符」の意味を紐解く。

キム・シウー/長年の「イップス」からの解放と、絶対王者へのユーモア

画像: イップスを克服して安定感を手に入れたキム・シウー(写真は26年全英オープン)

イップスを克服して安定感を手に入れたキム・シウー(写真は26年全英オープン)

今季未勝利ながら、圧倒的な安定感でポイントランキング5位に入ったキム・シウー。しかし、その輝かしい成績の裏には、想像を絶する苦悩があった。会見で彼は、これまで抱えていた深刻なパッティングの不振について赤裸々に告白した。

「実は長年、パッティングのイップスに苦しんできた。一時は長尺パターを導入して(2023年のソニーオープン・イン・ハワイで)勝てた時期もあったけれど、根本的な解決にはならず、優勝争いのような極限状態になると、どうしても手が震えてしまっていたんだ」

通常のパターに戻してからも模索は続いたが、そのどん底から完全に脱するきっかけを掴んだのが、今年(2026年)序盤の「ジェネシス招待」以降だった。「ようやく自分に合った打ち方と感覚を掴み、プレッシャー下でも手が震えなくなった。やっと心地よく、自信を持ってプレーできるようになったんだ」と明かす。

今季未勝利でありながらランク5位に位置するのは、ツアー最多となる「11回のトップ10入り」と、ショットの貢献度(Tee to Green +1.50以上)で絶対王者スコッティ・シェフラーと並ぶ「35ラウンド」を記録した驚異的な安定感があるからだ。

記者から「今年、シェフラーに(賭けゴルフなどで)いくら負けましたか?」と聞かれたキムは、笑顔でこう返して会見場を爆笑に包んだ。

「正確な額は言えないけれど、彼の2人目の子供のオムツ代はすべて僕が払っているようなものだよ(笑)」

10年近くにおよぶ精神的な苦難を乗り越えた強さと、王者と高め合ってきた人間味が、彼の言葉から溢れ出ていた。

アダム・スコット/46歳、イーストレイクの歴史そのものが誇る「矜持」

画像: プレッシャーを楽しむ余裕のあるベテラン、アダム・スコット(写真は26年全英オープン)

プレッシャーを楽しむ余裕のあるベテラン、アダム・スコット(写真は26年全英オープン)

46歳にして実に14回目の最終戦出場を決めたアダム・スコット。実は彼は、フェデックスカップが創設される直前、今から20年前の2006年「ツアー選手権」の覇者でもある。プレーオフにおける「60台のラウンド数」は通算112回を数え、ローリー・マキロイらを抑えてツアー史上最多記録を誇る、イーストレイクの歴史そのものと言える存在だ。

また、今回のフィールドにはスコットとジャスティン・ローズという2人の46歳が入っており、45歳以上の選手が複数最終戦へ進出したのは2009年以来の快挙となる。

25年にわたるキャリアの中で、「常にトップレベルを維持してきたことに大きな誇りを持っている。私はただ数を合わせるためにここにいるわけではない」と、プロフェッショナルとしての強い矜持を語る。

一方で、ランキング28位とギリギリでアトランタ行きの切符を掴み取ったことについては、大ベテランならではの独特な表現で現状を分析する。

「下位(30人の下のほう)からのスタートでここに来るのは、カジノで“ハウスマネー(他人の金/失うものがない状態)”で遊ぶようなものだ」

プレッシャーを楽しむかのような達観と不気味な余裕。大舞台を知り尽くしたベテランが、失うもののない状態で最終戦へ挑む。

アレックス・フィッツパトリック/兄弟の絆で掴んだアトランタと探求心

画像: ルーキー・オブ・ザ・イヤーの最有力候補のひとり、アレックス・フィッツパトリック(写真は26年全英オープン)

ルーキー・オブ・ザ・イヤーの最有力候補のひとり、アレックス・フィッツパトリック(写真は26年全英オープン)

ベテランたちとは対照的に、ルーキーとしてアトランタに降り立ったのがアレックス・フィッツパトリックだ。兄のマット・フィッツパトリックと共に、1987年以来となる「兄弟でのツアー選手権出場」という快挙を達成した。

「ここにいられることは本当に素晴らしいし、自分のハードワークと勝ち取った今シーズンを心から誇りに思っている」と、ルーキーらしい初々しい喜びを語る。

彼がこの夢の舞台へ上り詰める最大の原動力を得たのは、他ならぬ実兄マットとペアを組んで優勝を果たしたダブルス戦「チューリッヒクラシック」だった。兄弟の絆で米ツアー初優勝と2028年までのフルシード、そしてアトランタへの切符を掴み取ったのだ。

そんな彼が会見で明かしたのが、スライス克服に向けた泥臭い試行錯誤の舞台裏だ。先週の練習場で、大学の先輩であるキャメロン・ヤングや松山英樹のようにスウィングのトップで極端に長い「一時停止」を入れて練習する姿が話題となった。しかし、これはもちろん彼らの真似をしたわけではなく、左腕が体から離れて大きなスライスが出てしまう悪癖を防ぐためのドリルだと明かした。

「今週の調整次第だけど、実際の試合ではそこまで一時停止しないと思うよ。左腕を同調させるのに役立っているけどね」

試合中の華やかなショットの裏には、スライスと闘い、自身の課題に実直に向き合い続ける若手らしい泥臭い努力が隠されている。

欧州ツアー(DPワールドツアー)とは全く異なる米国の環境について、「僕は米国での生活やゴルフを楽しめているから適応できた」と語り、ハードなシーズンを乗り越えられた要因を爽やかに分析してみせた。

数字の裏に交錯する「30通りのドラマ」――歓喜と覚悟を胸に最後の大舞台へ

画像: 左からアレックス・フィッツパトリック、キム・シウー、アダム・スコット

左からアレックス・フィッツパトリック、キム・シウー、アダム・スコット

長年の苦悩から解放されたキム・シウー、20年の歴史と誇りを胸に戦うアダム・スコット、そして兄弟の絆と1年目の歓喜に満ちたアレックス・フィッツパトリック。

決してスコアボードの数字だけでは語れない、30通りの人生とストーリーが交錯するアトランタの地。彼らが最後のティーオフを迎える時、そこにはゴルフというスポーツの最も人間臭く、美しい瞬間が待っているはずだ。

写真/R&A提供


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