ところがどうだ。いざフタを開けてみると”予選通過”などふっ飛ぶ勢いではないか。しかも、このところ不調だが“帝王”の名を冠されるジャック・ニクラスを相手に。
「ニクラスとラウンドするのは初めてだけど、いくら帝王と言われていようが神様じゃない。ニクラスだって人間だ、オレだって人間、別にプレッシャーなんて感じない。嘘だと思われるかも知れないけど、気負いなんて全然ないんだ。自分でも不思議なくらいリラックスしている」
ニクラス復活を願う熱狂的ファンが取り囲む中で、青木は平常心を失っていなかった。ていねいにプレーを進める。ボギーどころか、バーディーが先行する。”考えてもいなかった”展開。

ショットパットともに冴え、青木の快進撃が始まる
初日2番(377ヤード)の数少ないチャンス・ホールで7メートルをぶち込む幸先の良いスタートである。7番の長いパー4(470ヤード)では、青木の頭の中ではボギーホールになっていた。ところが、若干のフォローウィンドもあってか、2打目をピン2メートルにつけバーディである。
「アウトで2ボギーは仕方がない」という思惑はうれしい誤算となって、青木の二度目の全米オープン・チャレンジは始まっていた。
3バーディ、1ボギーの68。満足感が伝わってくる。ニクラスが驚異的なスコア63をマークし、ギャラリーがざわつく中、動揺も見せず、会心のプレーができた満足感。

初日63をマークし、青木に5打差をつけたニクラス
「あれだけギャラリーに動かれたんじゃ、オレもやりづらかったけど、ジーン・リトラーが可哀想だよ」と気遣う余裕さえ見せ、「なにしろ良くやったよ。アンダーなら上出来だろう。ラフからも上手く打てたし、アプローチも寄ってくれた。何よりも強みなのはグリーンのタッチがつかめて来たことだ。いい感じで打てるもの。アトランタで全然入らなかったのが、嘘のようだ」とニヤリと笑う。
この日のラウンドで青木は確かな手応えをつかんだようだ。日頃、慎重な発言をする青木が、ポロリと口をすべらせた。
「これなら4日間アンダーが出るかも知れない」と。
●初日の青木 68ストローク(32・36)
1980年週刊ゴルフダイジェスト7月2日号