不調の原因は手の使い過ぎにあった
1986年シーズン当初、この年もニクラスの成績は振るわないでいた。ある日、トーナメントで負けて帰ってくる二クラスを見かねた息子ジャッキーが言った。
「何か根本的な欠陥がスウィングにあるのではないか」
それからニクラスは、彼自身が生涯の師と仰ぐジャック・グラウドを試合会場に同行した。ニクラスのプレーをそばで見てもらったのだ。
3月7日、マイアミで行われたドラルイースタン・オープン。この日もニクラスのプレーをそばで見ていたグラウドは次のような診断をした。
試合というプレッシャーがかかったときにショットが不安定になるのは、ボールを手と手首で引っぱたくようなスウィングをしすぎるためだ。
これはニクラスが1980年に体の動きに比べて、手の動きを大きくするスウィングに変えたことに起因する。年をとるにつれて飛距離が落ちることは仕方がないこと。なのに、二クラスは「手先」でボールをハードヒットすることでそれを遅らせようとしていたのだ。そしてこれからニクラスがトーナメントで勝ちたいのなら、苦しくても今ここで根本的な解決法をみつけないといけないとグラウドは言った。ニクラスは素直に頷いた。
まず取り組んだのは、バックスウィングのトップ。グラウドによると、ニクラスはインパクトの時に両手に力をこめようとして、バックスウィングの最後で手首を無理やりコックしすぎていた。それが原因でヘッドがブレてしまい安定したショットが打てなくなっていたのだ。
ニクラスが10代だったころ、ゴルフを始めたばかりの彼にグラウドが教えたこと
「バックスウィングでは空に向かって手を伸ばす」
「フォロースルーでもう一度空に向かって手を伸ばす」
これをグラウドはもう一度ニクラスに言った。原点に立ち返ってスウィングするようにと。
空に向かって手を伸ばすことを心がけると、自然に両腕が伸びて、体が充分に巻き上げられる。そして、腕が伸びて体が充分に巻き上げられると、ボールを打つときに手と手首に頼ろうとする度合が少なくなる。
この古くて新しい教えがニクラスのスウィング改善の兆しとなった。ニクラスはそれから2週間後の試合でそれまでよりもいい感触をつかみかけた。しかし残念なことに、母がなくなったためにその試合は途中棄権せざるをえなくなってしまった。
その後の試合でも随所にいいショットが出るようになり、二クラスは自信を回復し始めた。
しかし、また新たな問題がニクラスを悩ます。バックスウィングとフォロースルーを高くしたのはいいが、そのせいでスウィングが少しばかりぎこちなくなり、流れるような動きが失われていたのだ。
ニクラスはあれこれ考えた結果、全盛期の自分は常に、バックスウィングで一呼吸おいて気持ちを落ち着かせていたことを思い出した。さらにそれを可能にしていたのは、バックスウィングのテンポだったことも思い出した。ごくゆっくりとスタートして、流れるような動きでトップ、そしてダウンスウィングへと移すあの頃のスウィングを。
こうしてバッグスウィングをゆっくりと行うように心がけてから、二クラスの中に徐々にではあるが、自信が湧きあがってきた。あの素晴らしい感覚が戻ってきたのである。やがて、ボールを両手で引っぱたこうとする悪いくせも影をひそめ、スウィング全体が若いころの動き(両腕と腰を効果的に使うスウィング)に近づいてきたのだ。
ニクラスは、4年近い年月の間、クラブを振ってもどこかぎこちない感じを抱き続けていた。その長いトンネルの終わりが見えたのは、マスターズの直前だった。
「ニクラス復活の舞台裏」(前編)
1986年月刊ゴルフダイジェスト9月号 抜粋
今回はニクラスが86年マスターズに臨むまでに行ったスウィング改善の話を紹介した。
後編では、チチ・ロドリゲスがニクラスの息子ジャッキーに教えたアプローチを紹介。チチが息子ジャッキーに教えたアプローチが、ニクラスの86年マスターズ優勝に大いに貢献した。
お楽しみに