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チチからジャッキーへ、そして二クラスへ
86年マスターズ制覇は、ニクラスのショット改善もさることながら、彼の巧みなアプローチショット(以下アプローチ)なくして語ることはできない。
それまで二クラスは、アプローチを苦手としていた。1980年にフィル・ロジャースから技術面のアドバイスは受けていたものの、一貫性がなく、その結果、リカバリーショットが必要な場面でも、自信を持って打つことができなくなっていたのだ。
そんな中、息子ジャッキーのピッチショットとチップショットが目覚ましい進歩を遂げているのをニクラスは注意深く見るようになっていた。ジャッキーのアプローチは、ニクラスの友チチ・ロドリゲスが教えたものだった。
チチがジャッキーに授けたアプローチ
85年の秋、ジャッキーとチチは「グレーターミルウォーキー・オープン」に出場していた。ジャッキーのチップショットをじっと見ていたチチは言った。
「ジャッキー、もしも君がそれを望むなら、私は手助けをしてあげよう」
ジャッキーは、素直に聞いた。それは「他人のアドバイスには耳を傾けるべきだ」という父ニクラスの教えがそうさせたのであろう。それからチチは試合前に1時間以上もジャッキーのためにレッスンを行った。
それまでのジャッキーのピッチショットはひどいもので、クラブヘッドが1度地面に当たった後ボールを打つようなありさまだった。
チチがジャッキーに対してまず最初にしたアドバイスは、セットアップを目標ラインに対してオープンにするというものだった。そうすることで、両腕が体の前を自由に通せるというわけだ。次第にジャッキーは、クリーンにボールをヒットできるようになっていく。
次に2人が取り組んだのが、クラブフェースの向きとヘッド軌道の改善。チチはジャッキーにフェースの向きはスクェアにしたままで、スウィング時にはクラブを目標方向ではなく体と平行に振るように教えた。
すなわち、クラブの軌道はアウトサイドインになる。チチはアプローチにおいてはこれが、ボールに高さと回転を与えるもっともやさしい方法だと考えていたのだ。それにインサイドアウトよりもアウトサイドインの方が、体が手の動きの妨げになる度合いが小さいという。
このほかにもチチがジャッキーに教えたことは2つ。
・スウィングの間は体重を左サイドに保つ。
・手首をほとんど曲げないようにして、最初からフィニッシュまで左手でしっかりクラブを握る
この2つは、不必要な動きを排除してショットのコントロール性と安定性を目的としたもので、チチがアプローチで最も重要と考える「フェース面を目標に対してできる限りスクェアに保つ」を可能にするという。
チチに教わって以降、ジャッキーはチップショットからピッチエンドラン、ピッチショットに至るまであらゆるアプローチショットを自信を持って打てるようになった。
話は戻るが、ニクラスが息子ジャッキーのアプローチショットを見て最も驚いたのは、インパクト時のクラブの加速と、常に一定の弾道でショットを打っていたことだった。
ニクラスがフィルから教わったアプローチは、ショットの調子がいいときは効果を発揮するのだが、柔軟性に欠けるというきらいがあった。技術的にも難しいので、リカバリーショットが要求されるような場面では使いにくい。これに対して、ジャッキーがチチから教わってきたアプローチは複雑ではない。緊迫した状況でも気楽に使えそうだった。
フロリダの家にいるときは、ニクラスとジャッキーは毎日一緒に練習した。ジャッキーがチチから教わってきたことを今度はジャッキーがニクラスに教えたのだった。マスターズが始まる頃には、ニクラスはすっかり自分のものにしていた。自信を持ってアプローチできるようになっていたのだ。
マスターズ制覇後ニクラスは言った、「もしジャッキーがチチからアプローチを学んでこなかったら、優勝どころか20位にすら入れなかっただろう」。
これらのことが示しているのは、ゴルフについて唯一不変の定理であるーーーー
つねに学ぶことをやめてはならない
「ニクラス復活の舞台裏(後編)」
1986年月刊ゴルフダイジェスト9月号 抜粋
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