ボビー・ジョーンズが生誕してから、約113年。史上初のグランドスラマーであり、ゴルフの祭典マスターズ・トーナメントの創設者であるジョーンズは、弁護士活動の傍ら、文筆家としても高い評価を得ていた。彼が残した珠玉のレッスン書は、今も我々ゴルファーの心に強く響いている。
週末コラムでは、2回にわたり、球聖・ジョーンズの名著「Bobby Jones on Golf 」の中からバンカーショット、ラフの打ち方を記した文章を紹介する。
ラフからの脱出
アベレージ・ゴルファーは、ボールがくぼんだライや深いラフの中にあって、まわりを厳重にガードされたグリーンへ150ヤードぐらいのショットをするとき、どんなショットをすればよいか途方に暮れてしまう。
まず最初に頭に浮かぶのは、ボールのライのせいで、つまりスクェアにヒットできるほどボールが浮いていないので、予定した飛距離が出ないだろうと考えている。その考えが頭にあるので、飛距離の減った分を埋め合わせるためにボールがよいライにあるときに使うクラブよりも大きなクラブを選んでショットする。
ふつう、ゴルファーの技量いかんにかかわらず、アイアンクラブから目いっぱいの距離を引き出そうとするのは危険だが、今述べたような状況だけではその打ち方が必要である。それにはいくつもの理由があるが、練習場で学ぶショットを少し変えたり、小さな工夫で補ったりする必要があるトラブル・ショットをおこなうとするプレーヤーは、全てを理解しておかなければならない。
ボールが深いラフの中から小さな穴、またはくぼみにあるときは、クラブを急角度で振り下ろすことが必要になる。つまり避難所に逃げ込んだホールを文字通り掘り出すわけである。この必要がクラブのロフトを殺す。つまり5番アイアンが実際には4番になり、4番がふつうのライからの3番アイアンになってしまうまで、フェースがかぶさるか閉じるかしてしまう。
さて、今度はボールをヒットするときにどんな現象が起きるか見てみよう。ボールを掘り出すには強い力が必要だと思われる状態にあり、プレーヤーは、意図的にかはどうかは別にして、ふだんよりはかなりそれを強く打つことになる。さきほど述べたクラブのロフトの減少を帳消しにするために、ハーフ・ショットまたはコントロール・ショットをする可能性は、理論的にも実際にもない。
もうひとつ、よりロフトの大きなクラブを使うのが望ましい理由がある。クラブとボールの間に入り込んだ草のクッションが、スピンを生むのに必要なクリーン・コンタクトを妨げるために、深いラフからはバックスピン・ショットが打てないことを誰もが知っている。
だからほどほどの距離または計算できる範囲内にボールを止めるためには、ショットの高さに頼るしかなく、4番以下のロフトのクラブではそういうショットを打つことが出来ない。もしも4番アイアンで必要な距離が出せない場合は、十中八九より大きなクラブで冒険するよりは安全策をとるほうが賢明である。驚くべきことに、しばしばラフからロフトのあるクラブで打ったときに思いがけない距離が出ることがある。わたしは自分だけではなくほかの誰もが驚いたあるショットを覚えている。
それはウィングド・フットの、プレーオフの12番でのショットだった。わたしは、ドライバー・ショットをプルして、小山の後ろのグリーンが見えない場所に打ってしまった。グリーンの左手前には大きなバンカーがあって、グリーンの約半分をガードしていた。ホールの長さはおよそ470ヤードで、わたしのドライバーはせいぜい230ヤードしか飛んでいなかった。従って、2打でグリーンをとらえる望みは皆無に等しい。
わたしはボールを小山ごしに打って、グリーンの花道まで運ぶつもりで、4番アイアンを選んで小山ごしにフェアウェイの端に立っている大木の左を狙ってショットした。ところがグリーンにたどりついてみると、ボールはグリーン・エッジから1フィート足らずのところにあった。4番アイアンのショットは、長い草のおかげでとてつもなくランが出て、少なくともこれがフェアウェイからのショットだったら、同じ距離を稼ぐのには少なくとも3番ウッドが必要だったと思う。
そういうわけで芝にもぐったボールやラフのボールをプレーするときは、大きなクラブを使うのではなく、鋭角に強打しても飛びすぎないように、もっとロフトのあるクラブで打つのがベストである。こういう切迫した状況では、ふつうの場合なら奨められないくらいクラブを強く振る必要がある。
「第十章 ラフからの脱出」 完
※月刊ゴルフダイジェスト2002年3月号より