先日(2016年9月23日現在)、タイガー・ウッズが来月のPGA開幕戦で復帰するというニュースが注目を集めた。タイガーといえば、説明不要の最強選手。世界ランキング1位に在位した期間は683週にも及ぶ。タイガーに次ぐ2位がグレッグ・ノーマンで在位331週。3位は在位97週のニック・ファルドだ。
ゴルフファンがファルドに抱くイメージは、タイガーやノーマンのような「華」のあるプレーヤーとは対照的だった。「ストレスを内にため込んだ暗い顔」、「スウィング求道者」。その制御されたゴルフはその暗さに宿り、メジャー通算6勝もその暗さの上に立っているように思えた。
今週の週末コラムは、タイガーやノーマンに比べて、取り上げられることが少ないファルドのゴルフ観と素顔を、1998年当時のインタビューを通して、紹介する。98年当時のファルドは、96年のマスターズ(ファルドがメジャー優勝した最後の大会)を制して以降、2年間メジャー勝利から遠ざかり、復活優勝へ闘志を燃やしていた。
メジャーは“勝ち方”を知っていないといけない。まぐれはない。
ーー失礼かもしれませんが、笑ったことがない人なのかとも思っていましたよ。
ファルド いつもしかめっ面をしているから?
ーーそう、怖い顔。
ファルド でもそれはプレー中の話でしょ?あれはね集中しているからなんだ。ゴルフに全身全霊をかけているせいだよ。だって笑いながら仕事をするやつなんていないだろ?ボクだってそう。集中しなきゃいけないときにヘラヘラしないよ。普通の人がガッツポーズをしたり、笑顔を見せたりするかわりにボクは心の中で笑うんだ。
ーーじゃあ、普段は明るい方?
ファルド こんな感じだけど、これって明るいのかな?これから笑顔を心がけるようにするよ。
ーー96年のマスターズ以降、調子を崩したのはなぜですか?
ファルド ダウンスウィングで体と腕の一体感を失ったんだ。スウィングを追求し過ぎた結果だとかいわれるけど、そんなことはないんだ。いいときは考えなくてもいいテンポや個々のパーツのハーモニーが狂ってくる。これが不調の原因かな。
ーーレッドベターからも離れましたよね?
ファルド ここ2シーズンほど、ボクが求めているスウィングと彼の目指すスウィングの方向性が決定的に違ってしまったんだ。今は別のコーチにスウィングをチェックしてもらっているよ。
ーーいいときの感触が戻ってきた?
ファルド だんだん近づいているね。忘れていた自分本来のリズムを取り戻しつつあるんだ。
ーーあとは結果を待つだけ?
ファルド そうだね。勝つ準備はできている。
ーーメジャーでですか?
ファルド もちろん。メジャーは“勝ち方”を知っている人がやっぱり強いんだ。ツアーでは、ビギナーズラックのように偶然優勝するってことがある。でも、メジャーは違う。どうすれば勝てるのか、勝ち方を知っていないと勝てない。ボクは、初めて全英オープンで勝ったときにその“勝ち方”を知ったてわけ。
ーー3年前のマスターズ、ノーマンとの最終組で6打差を逆転したのも、やはり“勝ち方”を知っていたから?
ファルド もちろん作戦はあったよ。とりあえず前半で3つ、差を縮める。オーガスタのバックナインの3打差はあってないようなものって考えているから。1ホールで追いつくこともあるからね。
ーー敵はあくまでコース?
ファルド 相手が仕掛けてきたら、こちらも何かの対応はする。心理的な駆け引きや戦法はあるよ。でも最後はやっぱりコースと折り合いをつけるってことだね。
ーーコースとの折り合い?それは征服ということですか?
ファルド いやいや征服ではないよ。ゴルフっていうのはとても複雑なゲーム。いいスウィングをしても結果に結びつかないことがある。常に「あと、もう少し、こうすれば良かった」という思いは残るものなんだ。でも、その思いをすぐに消して、あるがままの状況を受け入れる。それが大事だね。ミスショットもすぐに忘れる。ミスしてしまった瞬間に、その記憶を過去のページにしてしまうんだ。やっと最近できるようになってきたよ。もちろん、できない日だってあるけど(笑)
※月刊ゴルフダイジェスト1999年3月号抜粋