とにかく痛みから逃れたい。その一心だった
「3連戦して上位に入ってツアー選手権まで進みたい。その先にはもちろんライダーカップがある」と第1戦ノーザントラストの開幕前の記者会見で語ったタイガー。初日松山英樹が首位グループと1打差5位タイの好発進を切るなかタイガーは60位タイ。落胆しているかと思いきや「番手の中間の距離ばかり残って攻めのゴルフができなかった。まぁ、こういう日もある」と楽観的だった。
「今後大事なのは練習と休養のバランス。先は長いけれどあまり練習し過ぎず、トレーニングもほどほどにしながら調整していきたい。幸い手応えを感じているからこのままでいきたい」
全米プロゴルフ選手権で単独2位に入ったことでフェデックスカップのポイントランクは20位に浮上。世界ランクも26位につけるなどシーズン開幕前には考えられなかった成果に本人のモチベーションは上がっている。
本丸はなんといっても来月行われる欧米チーム対抗戦ライダーカップ。2018年だけの成績なら自動的に出場権が与えられるポイントランク8位だが、過去2年間の成績が加味されるため現在のランキングは11位。自力での出場(上位8名)が叶わないためあとはキャプテンのジム・フューリックの主将推薦に頼るしかない。
「チームのメンバーに選ばれたい」と率直な言葉を口にするタイガー。キャプテンズピックの候補にはフィル・ミケルソン、ブライソン・デシャンボー、ザンダー・シャウフェレ、マット・クーチャーらがいるが、成績もさることながらギャラリーを熱狂させるタイガーの存在感は圧倒的。キャプテン推薦の可能性は高いだろう。
ちなみに9月4日にまず3人が選ばれ最後の1人は10日に発表される。
2月にタイガーの副キャプテン就任が発表されたころ当の本人は「果たして競技に戻れるのか」半信半疑だった。
その10カ月ほど前、マスターズ(17年)のチャンピオンズディナーでニック・ファウドがタイガーのこんなつぶやきを耳にしたと証言している。
「もう自分のゴルフ人生は終わった」
衝撃の告白に周囲は言葉を失った。だがそれは当時のタイガーの本心だった。
「臍帯血、リドカインやブポバカインといった局所麻酔薬やブロック注射、あらゆることを試したけれど(腰痛は)一向に良くならなかった。ゴルフがしたいからというより、とにかく痛みから解放されたい一心だった。最初にフュージョン手術のことを聞かされたときも心のなかでは(その成果を)疑っていた」
だが手術は成功。「もう二度とクラブは握れないかもしれない」「引退も現実的な選択肢のひとつ」だった1年半前の苦悩を思うと、競技の世界に戻りあっという間にスポットライトの中心に座った42歳の進化には頭が下がる。不可能を可能にしてきたタイガーがこれから起こすであろう奇跡の目撃者になれる幸運を噛み締めたい。
撮影/姉崎正