韓国のトリックスターはマスターズチャンピオンと同じ!?
「ピッチャーか!」と思わずツッコミを入れたくなるほど、目標方向へ右足を投げ出したフォロースルー。プロとは思えない奇抜なスウィングがネットを中心に拡散し有名になっているのが韓国出身のツアープロ、チェ・ホソンです。チェ・ホソンのスウィングを動画で見た時、私は敢えてパフォーマンスとして行っているのではないかと思いました。
「わざとなんてしていません。真面目にゴルフをしています」
チェ本人はいたって真面目にスウィングをしており、チェックポイントは体が硬いため肩を回すことぐらいでリズムとテンポを気にして打っているだけだと言います。
では、なぜあのような変則スウィングになってしまうのでしょうか。
そのヒントはマスターズチャンピオン、バッバ・ワトソンのスウィングにあります。ワトソンのスウィングは目標側の足(左利きなので右足)が、インパクト後につま先の向きが開きながら後方へ引け、両足が揃って目標へ正対するような形になります。
ワトソンの場合は主に目標側の足を使って縦方向の地面反力によって浮きあがりながら回転しています。
チェの場合は目標と反対にある右足が大きく浮き上がり元々ボールのあった位置に出ていきます。これはワトソンの縦方向の反力とはタイプが違い、回転系の反力によって地面を使っている結果です。いわゆる「右足で蹴る」動きを行う事で体の回転を生み出しています。
「飛ばそうとすると勝手に体が動いてしまうんです」
チェが語るように、ワトソンもチェも飛ばすために速く振ろうとすればするほど、無意識に下半身を使って飛ばしているのです。
変則スウィングというのは「ある特定の動きが極端に出た」結果として起きるものです。
私もバイオメカニクスの知識がないときは、ワトソンのインパクトで足が浮いて引けてるのは、変則だから参考にならないし説明のしようがないと思っていました。「マネしちゃだめ」で片づけるのは簡単です。しかし変則にも理由があり、その理由を知ることは個性を活かすティーチングにとって欠かさないことなのです。
アマチュアは変則プロこそ見習うべき!?
変則なところばかりが注目されるチェですが、練習を見ていると奇抜で豪快なイメージとは違い手堅いゴルフを目指していることが垣間見えます。
「短い距離のアプローチはクラブを短く持ってミスを減らしています」
シャフトに指が振れるのではないかというくらいグリップを短く持って、15メートルのアプローチの練習をしていました。
更にドライビングレンジでは基本的な動きをチェックしながら、足をおとなしくして「普通のスウィング」で練習をしていました。チェのスウィングの良いところはバックスウィングでクラブを縦に上げ体と腕の関係性を崩さないところです。個性的なプレーぶりとは違い、意外にもスウィング自体は再現性を重視した基本に忠実なスウィングなのです。
チェは44歳で体も硬く特別体格に優れているわけではありません。アマチュアにとってアスリートのゴルフスウィングを真似るのは身体的なハードルがあります。しかし、チェのような「アマチュアっぽいプロ」のスウィングは意外に参考になると思います。
さすがにチェのように下半身を動かすことはおススメしませんが、下半身にある程度自由度を持って動かすことは参考にしていいでしょう。方向性を良くしようと下半身をガチっと固めると、飛距離をロスするだけではなく上半身が優位になり方向性も悪くなります。まずは下半身の動きを理解し、意識するだけでも飛距離アップにつながるでしょう。
インタビュー中のチェの表情から25歳で初めてクラブを握ったというプロキャリアの苦楽と人柄の良さを感じました。今週の男子トーナメントは都心から近い埼玉の武蔵カントリー倶楽部・笹井コースでの開催なので、チェの奇抜さといぶし銀が混在した味のあるゴルフを見に行くのも面白いのではないでしょうか。