期待を書きとめ、結果と照合する
ドラッカーの著書のなかに、次のような一文があります。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。
『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)
ドラッカーは、この手法を「フィードバック分析」と呼んでいます。これにより、自分の「強み」や「強みではないこと」を明らかにし、そのうえで「強みに集中すること」、「成果を生み出すものに集中する」ことを勧めています。
ドラッカーは、「私自身、これを五十年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば、誰もが同じように驚かされる」と、その効果を自ら実証しています。ドラッカーの偉業は、「フィードバック」の産物であるといっても過言ではないのです。
「フィードバック」の手法を知って、「何をそんな当たり前のことを」と思った方もいるかもしれません。ただ多くの場合、結果との照合を怠ってしまったり、成果を生み出すものに集中できていなかったりと、正しく実践するのは思いのほか難しいのです。
じつは学校や学習塾でも、これに近い学習プログラムを採用しているところがあります。人間が物事を学び成長するメカニズムの、最も本質的な部分をついているためでしょう。
わかりやすく体系化された「フィードバック手帳」
私はこの「フィードバック」に興味を持ち、より深く知りたいと思うようになりました。とはいえ、「フィードバック」というキーワードは、ドラッカーの著作にそう頻繁に登場するわけでもありません。しかし、この概念はドラッカーの世界観の中核にあるといっても過言ではないでしょう。
このことに着眼したのが、ドラッカー学会理事の井坂康志氏です。井坂氏は思想家としてのドラッカーに着眼し、その本質に迫るなかで、「フィードバック」の重要性に気づきました。そして、この「フィードバック」を自ら実践し、セルフマネジメントの手法として体系化。さらに、誰もが手軽に実践できるシンプルな手帳術へと昇華させ、『自らをマネジメントする ドラッカー流「フィードバック」手帳』(かんき出版)という書籍を書き上げたのです。
「フィードバック手帳」とは、多面的に自分を観察し、継続的に記録することで、自分にとって本当に重要なことを見つけ出すものです。私はドラッカー学会での交流を通じて、これはさまざまな「学習」に応用できるメソッドだと直感しました。
そして、実践者の一人となったのです。
セルフマネジメントの強力なツール
「フィードバック手帳」とは、端的にいえば、目標によって自分自身をマネジメントする手帳術です。「目標を設定して、その成果と照合する」という行動を、手帳を使って日々繰り返していきます。この行動自体は、TODOリストや業務管理シートなどと近いものがありますが、特徴的なのは目標の達成具合ではなく、「自分自身を知る」ことに焦点を当てているということです。
フィードバック手帳を実践してみると、自分自身について、いかに知っているつもりで知らないことが多いかを思い知らされます。自分には、何ができるのか、何ができないのか、そもそも何を成し遂げようとしているのか。こうしたことが、手帳をつけるうちに少しずつクリアになってくるのです。
このツールは「学習」に効果的ではないか? そう思った私が、はじめに試してみたのが「ゴルフ」でした。「フィードバック手帳」を使ってゴルフ練習を始めたのは2016年の夏。実践を通じてゴルフ練習用に最適化を重ね、そして半年後、私のスコアは110から80を切るまでになったんです。
「ゴルフで覚えるドラッカー」(ゴルフダイジェスト社)より *一部改変
撮影/加藤晶