クラブメーカーは、広告で「前モデル比3ヤードアップ!」といったことをよくうたう。しかし、アマチュアゴルファーの中には20年前と今とで飛距離が変わらないという印象を持つ人も多い。これっていったいどういうことなんだろうか? 専門家とじっくり考えた。

「綱渡り」と「鉄の橋」では、渡れる速さが違う

「どのメーカーも、ニューモデルを発表するたび、前作に比べ3ヤード飛ぶ、5ヤード飛ぶといいます。2年に一度ニューモデルが出るとして、そうなると20年間で30ヤードは飛距離が伸びていなくてはならない計算になります。一般の方はなかなかそれを実感できないかもしれませんが、実はある意味でそれを証明する現象も起きているんです」

画像: パーシモンと糸巻きボールの時代から、何ヤード飛距離が伸びた?

パーシモンと糸巻きボールの時代から、何ヤード飛距離が伸びた?

そう語るのは、2006年にレッスン・オブ・ザ・イヤーを受賞したティーチングプロの永井延宏。永井によれば、クラブの進化を証明するのが、昨年彗星のようにPGAツアーに現れた飛ばし屋、キャメロン・チャンプだという。

2018年、PGAツアーの下部ツアーであるWEB.comツアーで平均343.1ヤードという異次元の飛距離を記録したチャンプ。今から20年前の1999年のPGAツアーの飛距離1位は怪童ジョン・デーリーだが、その飛距離は305.6ヤードで、実に40ヤード近くの開きがある。

この圧倒的な飛距離差は、チャンプ一人の話ではなく、1999年には平均で300ヤードを超えていたのはデーリーただ一人だったが、2019年のデータを見ると、2月21日現在のPGAツアーで平均300ヤードを超えている選手は33人いる。もちろん、その選手たちの多くが最新ドライバーを手にしていることを考えれば、クラブの進化は明白だ。

画像: 2017年の全米オープンで、当時アマチュアながらドライビングディスタンス1位となったチャンプ。そのときの平均飛距離は339.3ヤード、最長飛距離は365ヤードだった

2017年の全米オープンで、当時アマチュアながらドライビングディスタンス1位となったチャンプ。そのときの平均飛距離は339.3ヤード、最長飛距離は365ヤードだった

「ここでポイントとなるのは、今のクラブを使えば誰でも350ヤード飛ぶわけではなく、“今の選手が”今のクラブを使うと350ヤード飛ぶということです。私が私淑するクラブデザイナーの故・竹林隆光さんはよく『クラブがスウィングを作る』と言っていましたが、クラブが進化したことによりスウィングが進化し、結果的に350ヤードという20年前には考えられなかった飛距離が実現したというのが正しい表現だと思います」(永井、以下同)

永井は、そのクラブの進化とそれに伴うスウィングの質的変化を谷を渡る橋にたとえる。パーシモン時代、谷には綱が渡されており、それを渡るには職人芸的な技術が必要とされ、速く渡ることに意味はなかった。

それがメタルから初期チタンへと進化して、橋は平均台のような材質と幅になり、以前よりも速く・安全に渡れるようになった。そして460CCの大型チタンへと進化したことで、橋は1メートル幅の鉄製となり、全力疾走で駆け抜けられるようになったというわけだ。こうなると、逆に綱渡りのように一歩ずつ丁寧に歩む必要はない。

「橋を渡るたとえで、向こう岸に無事にたどり着くのが『狙った場所にボールを運ぶ』というドライバーの本来の命題です。橋の材質や幅が変化し、最近はある程度の技術があれば『落ちる』心配はほぼなくなりました。そこで、まるで陸上選手のように橋を駆け抜けるチャンプのような選手が台頭してきているのです。この場合、橋を渡る速度=ヘッドスピード、あるいはボールスピード。綱渡りの頃に比べて、それが速くなっているのは間違いがありません」

ただ、橋が鉄製であっても、技術がなければ橋から落ちる(=OB)こともあるし、橋の材質に応じた渡り方(=スウィング)をしなければ、飛距離も伸びない。橋が高速のベルトコンベアーに変化したわけではなく、それを渡るのはあくまでもゴルファーだからだ。

画像: 1999年発売のミズノプロ300S(右)と2019年モデルのミズノプロ モデルE(左)を比較してみると、大きさも違うし、打ちこなすためのスウィングもまた違う

1999年発売のミズノプロ300S(右)と2019年モデルのミズノプロ モデルE(左)を比較してみると、大きさも違うし、打ちこなすためのスウィングもまた違う

「ドライバーの進化の方向性を、竹林さんは“高慣性モーメント化”と表現していて、実際にその通りになっています。クラブは年々高慣性モーメント化して、曲がらなくなりました。そして、曲がらないことを前提としたスウィングが、350ヤードを飛ばせるスウィングとなるんです。チャンプのみならず、国内女子ツアーの“黄金世代”の選手たちもそのようにスウィングしています。まさに、クラブがスウィングを作っているんです」

今活躍しているハタチ前後の選手は、初めて触ったゴルフクラブがチタン製という、いわば“チタンネイティブ”とでも呼ぶべき世代。彼らがゴルフ界の中心になることで、より彼らが求めるクラブが開発され、ドライバーの進化はこれからも続いていくだろうと永井は予想する。そして進化したクラブがまた新しいスウィングを作り……とプロの世界の飛距離はどんどん伸びていく。

さて、長々と考えてきたが、プロならぬエンジョイゴルファーとして気になるのは、「で、おれたちはどうすりゃいいんだ」ということだろう。

「難しいスウィング論はさておいて、キャリアの長いゴルファーほど、“綱渡り的”だったり“平均台的”スウィング理論で振っている可能性があります。そのスウィング論は間違っていませんが、今のクラブとの相性が悪い可能性がある。無理に最新クラブを使わなくてもいいですし、最新クラブの恩恵を受けたいのであれば、それなりに勉強しているプロに教わって、アップデートを行うのが近道ではないでしょうか」

テクノロジーの塊であるパソコンだって、やりたい作業によって最新モデルが必要な場合もあれば、古いモデルで支障ない場合もある。ゴルフもそれと同様に、自分のやりたいゴルフ像、なりたいゴルファー像をまず描き、それに必要なクラブを選び、必要に応じてスウィングのアップデートを行うというのが正解なのかもしれない。

This article is a sponsored article by
''.