昨年、最終戦のツアー選手権に優勝し、見事に復活を遂げたタイガー・ウッズ。そのリハビリから試合復帰まで支えとなったのが、若手コーチのクリス・コモだ。今回コモと、生体力学をゴルフに活用する研究を行うヤン・フー・クォン教授との対談が実現。ゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎が2人に話を聞いた。

もっとも力の出るポイントを見つけて伸ばす

タイガーのツアー復帰を支えたクリス・コモ。大きな実績がないながらもコーチとして迎え入れられたのは、スウィングはもちろん体の使い方にも精通していたからだと言われています。体に負担の少ないスウィングでケガの再発を防ぎ、飛距離も全盛期を上回るほどの力強いものにした実績は、彼だから成し遂げられたものだったでしょう。

画像: 地面反力を取り入れた体への負担が少ないスウィングを身につけ、2018年に復活優勝を果たしたタイガー・ウッズ(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/姉崎正)

地面反力を取り入れた体への負担が少ないスウィングを身につけ、2018年に復活優勝を果たしたタイガー・ウッズ(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/姉崎正)

コモは生体力学(バイオメカニクス)を応用しスウィングを構築するという手法をとっています。その知識のバックボーンとなっているのが、生体力学を専門に研究するヤン・フー・クォン教授です。2人はこれまでPGAツアープレーヤーをはじめとする多くの一流ゴルファーのスウィングを測定し、それを元にティーチングや実験を行ってきました。

「飛距離を伸ばすために私が生徒と取り組んでいるのは、もっともパワーが出るポイントを探すことです」(コモ)

この力を出すポイントはプレーヤーによって異なるといいます。だから「特定の動きを行ったから飛ぶ」という事ではなく、力の源泉を探し、その動きを効率化してスウィングを改善していくのです。この効率化の作業は、PGAのトッププロでも完全にできている人はほとんどいないようです。

「どんなプレーヤーでも効率化する余地はあると考えています。アマチュアもプロも関係ありません。力の出るポイントを探して、そこを伸ばす。そうすることで人生最大の飛距離を生み出すことができるのです」(コモ)

効率化をつきつめるとケガの防止にもなる

プレーヤーの骨格や筋力に合わせて力を最大化するというのは、ティーチングの原点です。しかしこれまでは目に見えない力の方向などの計測ができなかったため、大部分がコーチの経験頼りになっていました。クォン教授はそのような可視化できなかった部分をデータ化し、大量のサンプルを取ることで効率がよくなる動きを研究しています。

「効率化を図るためには、どこか一つに力を加えたり寄せたりするのではなく、体全体が連動して動く必要があります」(クォン教授)

コモはこの「動きの連動」が、ケガの防止にもつながるといいます。

「プロでも腰を痛めてしまう選手をよく目にします。本来可動域が少ない腰椎部分をねじってスウィングをするため、必要以上に腰に負担がかかって起こることが多いです。腰椎ではなく股関節や臀部を使うことができれば、上半身と下半身が連動し故障も防ぐことができます」(コモ)

画像: クリス・コモ(写真左)とヤン・フー・クォン教授(写真右)。2人は、動きの効率化が飛距離アップとケガ防止につながるという

クリス・コモ(写真左)とヤン・フー・クォン教授(写真右)。2人は、動きの効率化が飛距離アップとケガ防止につながるという

私のところにはひじを故障して飛距離が落ちてしまったアマチュアが、しばしば相談にやってきます。彼らは腕の力だけでクラブを動かすので、ひじにその負担がかかりケガをしてしまうのです。箇所は違えど特定の部分だけに力が集まり負担がかかるのは、プレーヤーにとって大きなリスクになるのです。

今後、体の負担の少ない動きで効率的に飛ばす選手はどんどん増えるでしょう。現に、コモやクォン教授のもとには多くのPGAツアープレーヤーやコーチたちが話を聞きに訪れています。ティーチング大国のアメリカを中心に、ギアではなくテクノロジーとティーチングで飛距離を伸ばす時代がやってくると、2人は予言をしていました。

今週発売の週刊ゴルフダイジェストでコモの16ページのレッスン特集を行っていますので、詳しくは誌面をご覧ください。

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