モリナリの主要ショットスタッツは前日から大幅ダウン
3日目を終えた段階でのタイガー・ウッズとフランチェスコ・モリナリのデータは、ほぼすべてにおいてモリナリのほうが上、というものでした。モリナリの懸念材料は、タイガーと回る最終日最終組の雰囲気に呑まれないかどうか、その一点と感じていましたが、やはり最終日のモリナリは、はっきり言って前日までとは「別人」でした。
前日まで78.57%あったフェアウェイキープ率は最終日57%まで急降下。72.2%あったパーオン率は44%まで低下しています。3日間を通じて安定したショットを放ち続けていた男が、別人のように調子を落とす。これがマスターズの、それもタイガーと一緒に回る最終日最終組の恐ろしさなのでしょう。
事実、この日のモリナリは正直気の毒と言っていい状況でした。会場全体が「タイガーに勝たせたい」という雰囲気に覆われています。それはイコール「モリナリに負けてもらいたい」ということ。もちろんブーイングや、罵倒する声はありませんが、目には見えない圧力が、全英王者・モリナリから平常心を奪いとっていったように思います。
さて、データ的にはもう一人前日までとは異なるパフォーマンスを見せたプレーヤーがいます。そう、タイガー・ウッズです。59.52%だったフェアウェイキープ率は71.43%にアップし、パーオン率は前日まですでに79.6%と高水準でしたが、最終日は驚異の83.33%です。
パターはむしろ入っていない印象でしたが、それでも6バーディを奪えたのは、それだけショットが好調だったことが要因です。
同じ最終組のモリナリ、そしてトニー・フィナウがパフォーマンスを落とし、タイガーだけがパフォーマンスをアップさせる。まるでアウェイとホームかのような、如実すぎる差がそこにはありました。
圧倒的な“ホーム”の空気の中、タイガーはひたすら事前に決められたゲームプランを実行しているように見えました。もちろん10番ホールのようにティショットをミスするホールはありましたが、12番ではセーフティにグリーンセンター狙いでパーを守り、13、15のパー5では確実にとる。2打差のリードがある18番では無理をせずにスプーンで攻める……見事なゲーム運びでした。
そして迎えたタイガーの14年ぶりのマスターズ制覇。その歴史的瞬間に立ち会えたことは、非常に嬉しいことでした。18番のグリーンサイド、ふと横にいたパトロンを見ると、彼は一人涙を流していました。優勝してファンに涙を流させることのできるゴルファーは、そう多くないのではないでしょうか。
さて、最後に自慢話(?)を。みんなのゴルフダイジェストで実施したマスターズ優勝予想、私はタイガー・ウッズの名前を挙げていました。タイガーが昨年全英オープン、全米プロで優勝争いをし、最終戦「ツアー選手権」で勝利をしたときから、今年のマスターズはタイガーが本命だと信じ続けてきました。
ツアー選手権終了後のタイガーは、すべてをこの日のために捧げてきたのだと思います。この4日間だけでなく、半年近い準備の時間を費やし、体と技術を整え、ゲームプランを練り、そのすべての成果が最終日のプレーにつながったのではないでしょうか。
マスターズに合わせた準備の力。過去にマスターズを4度制しているタイガーは、それがもっとも優れていた。その結果としての勝利だったと思います。
撮影/姉崎正