転機は16年。ダメもとで挑戦したPGAのラテンアメリカツアーで3勝を挙げようやくプロとしてやっていく自信がついた。18年には夢だったPGAツアーに参戦。予選落ちの山を築いたが準シードを得て今季も試合に出ることができた。
しかしロケットモーゲージクラシックの出場権はなく現地に出向いたものの待機。大会前々日の火曜日にウェイティング1番目となり「もしかしたら」と思った彼の予感は当たり、実際棄権する選手が出て水曜日に繰り上がりで出場が決まった。だがまさか最後の最後に切符を掴んだ彼が初日からトップを走り完全優勝するとは誰が予想しただろう。
しかもホストプロであるリッキー・ファウラーや世界ランク2位のダスティン・ジョンソン、全米オープン覇者のゲーリー・ウッドランドらそうそうたる面々が顔を揃えていたのだからラシュリーの存在などファンやマスコミの眼中にはなかった。
「ゴルフの調子がすごく良かったので今週はなんとしても試合に出たいと思っていた。それが叶って結果を出すことができて…。すべての人に感謝しかない」
地獄を見た男の初優勝シーンはガッツポーズもなく派手なパフォーマンスもないただタップインパーをチョンと沈める淡々としたものだった。
「ツアーで勝負できるだけの力はあると思っていた。でも少し前まではここに居場所がなかった。それが徐々によそ者じゃないと思えるようになってきた。時間はすごくかかったけれどこうして勝つことができてうれしい」と感無量の勝者。
「優勝争い? 全然楽しくなかったよ(苦笑)。ストレスの連続だったし緊張もしていた。お楽しみはこれから。じっくり(優勝を)味わいたい」
壮絶な過去を持つ男の地味で無骨な初優勝。15年前同じ苦悩を味わった姉に祝福されたラシュリーの胸にはじわじわと喜びが広がっていた。