「ニトリレディスゴルフトーナメント」を制し、宮里藍、畑岡奈紗に続く10代での2戦連続優勝を飾った笹生優花。スケールの大きい豪打が目立った前戦の優勝から一転し、難コンディションの中でショートゲームの巧みさを感じさせたそのプレーを、プロゴルファー・中村修が解説する。

アプローチではボールをフェースに乗せて運ぶ柔らかいタッチを見せる

北海道は小樽CCで開催された「ニトリレディス」で19歳の笹生優花選手が2戦連続で優勝を成し遂げました。最終日は気温も下がり風も吹き、スタートも2時間以上も遅れる波乱のスタートとなりました。そんな状況の中、笹生優花選手は落ち着いてスタートし、2番で木越えのショットを狙って池に入れダブルボギーを叩いても崩れることなく、二人しかいない最終日にアンダーパーを出した内の一人となり優勝を手にしました。

ショット力については、今大会も4日間を通してパーオン率77.7%と素晴らしかったですが、13フィートと言われる小樽の高速グリーンへの対応(それも最終日は風雨の中で)が見事でした。実際、パット数も4日間の平均パット数28.75で3位タイ。惜しくも敗れた小祝さくら選手はパット数29.50でしたので、4日間にならすと3ストローク。最終的に笹生選手と小祝選手は2ストローク差がつきましたが、勝負の明暗を分けたのはパットだったように思います。

アプローチも冴えました。勝負どころの12番パー3ではグリーンを外すも、48度ウェッジを使って19ヤードをチップインバーディ。普段は上げるアプローチを多用するものの、朝の練習で同じ48度ウェッジを使って練習していたといいますから、コースやコンディションによって必要となるスキルを見出す対応力の高さは19歳とは思えません。そのアプローチの技術面を見ていきましょう。

画像Aはロフトなりに上げるアプローチですが、トップの位置で左腕が伸び、低い位置にある左手首が一直線(フラット)になっている点に注目します。それにより、手首を甲側に折るような動き、俗にフリップと言いますが、それが起きにくくなり、フェース面が管理しやすくなります。

インパクトでも左腕は伸びたまま、手元も低いまま。わずかにクラブのリリースを遅らせゆるやかな軌道で振り抜いています。切り返しの初期で下半身を使って回転力を作ったら、クラブヘッドの重量を感じながらお腹や胸、肩を動かすことでスムーズに振り抜いています。

アプローチでダフリのミスが出やすいという人は、もしかしたら笹生選手とは逆にリリースのタイミングが早すぎるのかもしれません。その場合、少しグリップの握る強さをゆるめて、クラブヘッドの重量を感じるように意識するといいでしょう。

画像: 画像A:ダウンで左手首はフラットで手元が低く下りてくる(写真はISPS HANDA 医療従事者応援 チャリティレディーストーナメント 写真/大澤進二)

画像A:ダウンで左手首はフラットで手元が低く下りてくる(写真はISPS HANDA 医療従事者応援 チャリティレディーストーナメント 写真/大澤進二)

左手首をフラットに使うのは、アプローチだけでなく笹生優花選手のショットでも共通する動き。インパクトまでしっかりとフェース面をキープしてややハンドファーストなインパクトに導き、インパクト後は自然と甲側に折れヘッドの進みたい方向を邪魔しないようにすることで、フェースにボールを乗せて運ぶような柔らかい使い方ができています。

ロリー・マキロイを思わせるスウィングから女子としては規格外の豪打を放ったと思ったら、一点、こんな柔らかいアプローチもできるのが彼女の凄いところです。

また、お母さんの母国であるフィリピンをはじめ、世界各国でのプレーの経験から、北海道ならではの洋芝への対応もしっかりとできていました。

画像: 手首をこねずにボールをフェースに乗せるように球を運ぶアプローチだ(写真はISPS HANDA 医療従事者応援 チャリティレディーストーナメント 写真/大澤進二)

手首をこねずにボールをフェースに乗せるように球を運ぶアプローチだ(写真はISPS HANDA 医療従事者応援 チャリティレディーストーナメント 写真/大澤進二)

パットについても見ていきましょう。「パットはそんなに得意ではない。28パットくらいしているので普通かな」と本人は終了後の会見で話していましたが、優勝争いの中、決めるべきところでは確実にカップに沈めていました。

細かく見てみると、両ひじを適度に曲げ、パターのグリップエンドがおへそを指す状態をキープするようにストロークしています(画像C)。ご覧のように手元を低く保ちながらストロークしようとすると、腹筋に力を入れないと安定しません。手先を極力使わずに体幹を使ってストロークすることでブレずに距離感の合うパッティングを実現しています。

画像: 手元が低い位置を保ちながら体幹を使って安定したストロークをする(写真は2020年NEC軽井沢72ゴルフトーナメント 写真/代表撮影 鈴木祥)

手元が低い位置を保ちながら体幹を使って安定したストロークをする(写真は2020年NEC軽井沢72ゴルフトーナメント 写真/代表撮影 鈴木祥)

シーズン開幕前は、飛距離やショット力はあるがまだ粗削りなところがあり、今シーズンの戦いの中で大きく成長するのでは……と楽しみにしていましたが、豪打に加え小技や難コンディションへの対応力も備え、いきなり圧倒的なパフォーマンスを見せてくれています。正直、期待以上です。

優勝争いの中でも自分のゴルフに集中するゲーム運びなど、本当に驚くべき19歳のツアールーキーです。ぜひ注目を、と言わなくてもみなさんすでに注目していると思いますが(笑)、どこまで強くなるのか、本当に楽しみです。

This article is a sponsored article by
''.