伊澤:鈴木さんにスピンで寄せる伊澤流アプローチ術を伝授していきたいと思うんですが、まず鈴木さんにチャレンジしていただきたい状況を用意しました。
鈴木:ボールからピンまでの距離が20ヤード、グリーンまでは10ヤード。ボールが落下するエリアからピンまでのグリーン面は下りという、ボールが止まりづらい状況ですね。これは寄せづらそうです。
伊澤:最初は鈴木さんが普段やられているアプローチの打ち方で打ってみてください。その後に、この止まりづらい状況で、どこまでスピンを掛けられるかアドバイスしていきたいと思います。
鈴木:わかりました。
――56度のウェッジを使い、1球目は得意だというピッチ&ランで狙うものの、ショートしてしまう。ただ、感触を掴んだのか、2球目はやや高めに打ち出し、キャリーを出していく打ち方に修正。結果、程よく転がってベタピンの寄せに成功した。
伊澤:うん、素晴らしい。教えることないんじゃないってくらい、完璧なショットですね。
鈴木:レッスン前に伊澤さんにフェース面をしっかり磨いていただいたおかげです。フェースがキレイな状態ならボールを喰ってフェースに乗ってくれる、ということがわかったので、打っても怖くないなっていう気持ちがあって、しっかり狙えましたね。
伊澤:ベストスコア72ということもあって、少し難しめの状況でも難なく寄せることができていますね。では高難易度の寄せに挑戦してみましょうか。実際のピンよりも手前側、グリーン面でもとくに下り傾斜がキツくてプロでもなかなか寄らない位置にペットボトルを仮想のピンとして置きましたので、そこを狙ってみてください。あの位置に寄せるとなったら、鈴木さんならどう打ちますか?
鈴木:とりあえずこういう場面で考えるのが、確実にグリーンに乗せなきゃいけないな、ということ。狙いすぎて手前にショートするのが嫌なので、56度で抑えて打ってみます。
伊澤:OK! じゃあ、それでいってみましょう。
――しかし打球は鈴木の恐れていた結果に。グリーン手前のカラーに阻まれ、グリーンオンならず。
鈴木:これなんだよ~!
伊澤:鈴木さんのピッチ&ランの打ち方だと、こういう状況だとスピンで止めるというイメージがないので、ショートしたんだと思います。では次は鈴木さんなりに、スピンで止めるイメージで打ってみてください。
鈴木:わかりました。
――ここで、さすが元サッカー日本代表選手の身体能力の本領を発揮。これまでのピッチ&ランではなく、打ち慣れないスピンの掛かったアプローチに挑戦すると、56度でカット気味にフワッとした球を打ち仮想のピンにピタリと寄せた。
鈴木:え、これ、まあまあ上手いんじゃない?
伊澤:まあまあどころか、プロもビックリです。でも、今のはフワッとした球で寄せるアプローチでしたね。もちろん今のも全然正解で、しっかり寄せられる鈴木さんはすばらしいんですけど、でも打とうと思っていた「スピンで止めるアプローチ」かというとそうではないんですよ。
鈴木:ああ、確かに。僕は今回、スピンで止めるアプローチを習いに来たんですからね。
伊澤:じゃあ早速、そのスピンで止めるアプローチの打ち方のレッスンに入っていきましょう。クラブも、56度ではなく、60度を使いましょう。
鈴木:わかりました。じゃあフェースを開いて……。
伊澤:あ、ちょっと待ってください。これは「フェースを開いた時あるある」なんですが、鈴木さんもグリップがフェースを開く前と同じ握り方になっていますね。
鈴木:え、握り方は同じじゃ駄目なんですか?
伊澤:同じでも打てなくはないですが、難易度が上がってしまいます。
鈴木:どうしてですか?
伊澤:そもそも、ゴルフクラブってシャフトの軸に対してヘッドが出っ張って付いていますよね。例えば両手でヘッドが上に来るように水平に持った場合、手で支えていないとヘッドはクルッと倒れて下に落ちてしまいます。ゴルフクラブは構造上フェースが開く性質を持っていて、こういった動きがスウィング中でも起こっているわけです。
鈴木:ほうほう。
伊澤:もともとフェースが開きやすいゴルフクラブを、開いて構えてから振ると、さらに開く方向にテンションが掛かることになります。そうすると、フェースにボールが乗りづらくなるし、当たりづらくなる。これが、開いて構えて打つショットの難易度を上げている原因です。そこで、フェースを開いた時は、しっかり当たる握りにしましょう、ということなんです。
鈴木:なるほど。
伊澤:しっかり当たる握り方で一番簡単なのが、フックグリップです。フェースを開いて構えることでボールが「右に打ち出て」、「飛ばなく」なります。一方フックグリップはボールが「左につかまり」、「飛ぶ」要素を含んでいます。フックグリップに握ることで、クラブフェースの開く方向に対抗する動きがスウィング中に働きやすくなるので、フェースの開きを自然に抑えることができるわけです。
鈴木:あ~、なるほど。だからフェースを開いた時はフックグリップなんですね。
ここで鈴木さんがフェースを開いた時に、今まで通りにスクェアグリップで打った時と、フックグリップで打った時のボールのフェースへの乗っかり具合の差がどれだけ出るかを検証してみた。
――伊澤の教えを受け、今まで通りにスクェアグリップで握った場合と、フックグリップで握った場合とで打ち比べてみることに。まずスクェアグリップで打つと、フェースに乗りはしたものの、思ったほど飛ばずにショートした。次に、左手のグリップをかなり被せてフックに握った鈴木さんは「これで打つんですか」と違和感を口にするが、いざ打ってみると距離も出て、落ちてからスピンがギュッとかかるナイスショットに!
鈴木:今めっちゃスピン入りましたよ。スゴい! 今、落ちてから2クッションくらいで止まりましたよ! こんなに違うとは……。
伊澤:先ほどの56度で打ったフワッと止めたショットに比べて、今のは明らかにスピンで止めたショットになっていましたよね。しかも落ちたところは下り傾斜で、芝も硬めの状況ですからね。もしグリーン面が平らで芝がもっと緑になっていたら、今の打ち方でもスピンで戻っているかもしれません。
鈴木:グリーン出ちゃうかなってくらい振ってしまった感じだったんですが、オーバーせずにピンの手前で止まってくれました。……なんででしょう?
伊澤:それは、振っても飛ばない60度のウェッジで、さらにフェースを開くという飛ばない環境づくりをしてあるからです。さらにフックグリップで握ることで、開いて構えてもしっかりとフェースに乗せる打ち方ができるので、スピンがしっかり掛かったわけです。
鈴木:今までは、フェースを開くと右にシャンクしないかと凄く怖かったんです。それは、握り方を変えていなかったからなんですかね。
伊澤:その通りです。開いて通常の握り方で振った場合、自分で能動的にボールを捕まえる動きを入れていかないとボールがつかまりにくくなります。でも、そうやってスウィング中につかまえる動きを入れるのって、結構難しいじゃないですか。だったら、開いて構えた時には握り方も変えた方が良いですよね。そうすればあとは何も変えなくても自動的にクラブが球をつかまえてくれるので、スピンも入るわけなんです。
鈴木:フェースを開いてフックグリップに握る。これだけでスピンがこんなに掛かるとは。ありがとうございました!
取材協力/葉山国際カンツリークラブ