鈴木啓太(以下鈴木):伊澤プロと言えば、激スピンのアプローチですよね。なにかスピンをかけるコツとかってあるんですか?
伊澤秀憲(以下伊澤):スピンのかかったアプローチが打てるようになる、とっておきのドリルがありますよ。といってもやり方は本当にシンプル。ティアップしたボールをアプローチショットで打つだけです。これでスピンをかけるコツも体感できますよ。
鈴木:え、もしかして60度のウェッジでティアップしたボールを打つんですか?
伊澤:その通りです。鈴木さん、経験はありますか?
鈴木:初めてです。当たる気がしないですよ。
伊澤:じゃあちょっとやってみましょうか。まず、用意したティをグリーンの外でピンから10~20ヤードくらいの適当な場所に刺しましょう。このときのティアップの高さは、ドライバーのティアップかそれよりも少し低いくらいです。このティアップされたボールに対して、最初は「下から上に」振る打ち方でスピンをかけてみましょう。
鈴木:下から上、アッパーブローで打つ。以前、教えてもらった左足上がりのライからスピンアプローチを打つポイントと同じですね。
伊澤:その通り。左足上がりのライからのスピンアプローチでは、クラブがボールの下に入った時にヘッドを上に持ち上げるイメージで打ちましたよね。あの感覚を養うのに、このティアップをしたボールを打つドリルが最適なんです。ボールの下の部分にヘッドを入れていくスペースが充分にできるので、芝の上から打つよりもインパクトでヘッドを持ち上げる感覚がイメージしやすくなるんですよ。
鈴木:なるほど。
伊澤:ではさっそくやってみましょうか。ヘッドを下から上に持っていきたいので、構えた時にヘッドはあまり宙に浮かせないほうが良いですね。
鈴木:わかりました。
――鈴木の1球目はピン奥の斜面へホームランしてしまうものの「ヘッドを下から上に持ち上げていくイメージを強く持ってください」と伊澤の再びの助言を受けた2球目では、スピンの掛かった完璧なアプローチに。
伊澤:OK! 完璧です。
鈴木:すげぇ! ボールを運んでいくイメージなんですよね。
伊澤:そうなんです。このドリルをやるとインパクトでヘッドを上げていくタイミングが掴みやすいので、スピンショットに一番大事な、フェースにボールを乗せる感覚が養われるんですよ。
もし手前からダフリ気味に入ってきても、アッパーブローで振っているのでソールが滑ってくれて、多少ダフっても問題なく、しっかりスピンも入ります。繰り返しになりますが、スピンアプローチは、「下から上に、ボールを乗せるように打つ」。これを覚えて欲しいですね。
鈴木:なるほど。
伊澤:でも、もしダフリが気になるのであれば、クラブを少し短めに握ってもらってもいいかもしれないですね。するとそのぶんスウィング中にヘッドが地面側に落ちづらくなりますから、ダフリもしづらくなります。こういった適正なセットアップの調整も、このドリルをやっていると分かってきますよ。
鈴木:スピンアプローチって玄人技かと思っていましたが、結構オートマチックに打っているわけですね。
伊澤:そうなんです。僕のアプローチを見ていると、オートマ運転ではなくマニュアル運転みたいに、自分でいろいろなことをやって打っていると思う方も多いんですけど、でも意外とやっていることはシンプルで、今やっているティアップしたボールを打つドリルに、ほんの少しアレンジを加えているだけなんですよ。
鈴木:これはまさに、“伊澤ワールド”ですよ。
伊澤:このティアップドリル、アッパーブローでスピンを掛けられるようになってきたら、次はレベルブロー、最後はダウンブローと難易度を上げていきましょう。自然とフェースにボールを乗せられるアッパーブローが一番難易度が低く、打ち込む動きになるほど難しくなってきますよ。
鈴木:やっぱり一番打ちやすいのはアッパーブローですよね。レベルやダウンブローで打つときは、ライによって使い分けているんですか?
伊澤:そうですね。アッパーブローは左足上がりや球が芝に浮いたライに対応する練習になります。ダウンブローは、左足下がりのライからのスピンショットにつながります。その他のライはレベルブローで対応できるので、このティアップドリルがいろんなライからのスピンアプローチにつながるんです。
鈴木:へぇ~。
伊澤:あと、出球の性質もクラブ軌道で変わりますよ。アッパーブローはロフト角度がついた状態で当たるので、ボールの高さが出て飛ばない。レベルブローはロフト角が少し立って入ってくるので打球は低くなり距離が出る。ダウンブローはさらに低い球で飛ぶといったように、クラブ軌道の使い分けでキャリーや飛距離のイメージも掴みやくなるんです。
鈴木:今までは、いろんなライからのアプローチのスピンショットなんか別世界のことなのかなって思っていたけど、教わった通りにやってみると、「あ~そういうこと」みたいなのが分かったというか。もちろん伊澤さんとはスキルが全然違うんだけど、何となくちょっと見えるものがありました。
伊澤:スピンを入れたアプローチの練習は、普通に芝の上から打つのも良いんですけれど、ティを使うことでいろんなライに対応した練習ができます。フェースに乗せて球を運ぶというスピンを掛けるのに大事な技術を養うには最適なドリルにもなっているので、ぜひやってみてください。
取材協力/葉山国際カンツリークラブ 写真撮影/野村知也