早くて2050年。浸食の被害が始まる…
いまの時代、グーグルマップなどで簡単に世界中の景色や地形を見ることができ、非常に便利になった。セントアンドリュースという土地を調べてみると、東側が北海に面し、西側は北海にそそぐエデン川に面している。
オールドコースはそのエデン川の河口に突き出た半島にあり、半島の先端に向かってゴーイングアウトしていき、先端でハーフターンして、カミングインして戻ってくる。その地形を見て、気象予報士の森田正光氏は、すぐに風の影響を口にした。
「セントアンドリュースという土地は、調べてみると面白いですね。海に半島が出ているような形で、いろいろな方向から風が吹きやすく、風がぶつかりやすい。風が読みにくいと聞きますが、この複雑な地形が、“風の妙”を演出しているのだと思います。ただ、夏の気圧配置ですと、高気圧が南にあり、全英の時期はわりと南風が多いのではないかと思います。果たして200年も前にコースができたときに、この厄介な風を考慮していたのか、それとも偶然かはわかりませんが、この自然がコースを難しく、面白くしているのは確かですね。でも、その当時は想像していなかったであろう、コース消滅の危機が今、セントアンドリュースに近づいているのです」(森田氏)
森田氏がその根拠に上げるのが、「クライメイト・セントラル」という非営利団体(気候変動が社会に及ぼす影響を研究するチーム)が2021年に発表した、今後数十年にわたる水位予測マップだ。
これを見ると2030年にはすでにコースの一部が水没する危険性があることが分かった。R&Aの建物の前のオールドコースの1番ホールや18番ホールのあたりも水没の可能性があるゾーンに入り、“半島”の先端の8番ホールのティーイングエリアや、7番と11番ホールのグリーンも同じように危険区域に入る。
さらに時を進めていくと、2050年には半島のほとんどの部分が水没の危険区域に入ってくる。頻発して起きる洪水の被害や海面上昇によって、このリスクが高まっているというのだ。
森田氏によれば、「年間降水量の多さ、また温暖化による海面上昇や高潮が頻繁に発生するようになった結果、世界規模で海岸線の水没が起こっています。護岸工事や排水施設設置など、実際には水没を防ぐことが可能かもしれないですが、地球全域で異常気象や温暖化が進む中、どれだけ対応できるかは未知数ですね」
実際にセントアンドリュースから、車で北へ1時間ほどの海岸線にある、モントローズゴルフリンクスでダンディー大学の研究チームが調査を行ったところ、この30年間で約70メートルも海がコースに近づいているという。
この影響はセントアンドリュースにとどまらず、カーヌスティGLやロイヤル・トゥルーンGCといった全英オープン開催コースも水没の危機に瀕している。
全英オープンは今回が記念の150回目。25年後の175回記念大会(2047年)、2072年の200回記念大会も、今のセントアンドリュースで無事開催されることを願うばかりだ。