真剣にゴルフを始めたのは大学生からという35歳のライアン・フォックス。「これから世界に名をとどろかすはず」と海外ツアーに詳しい佐藤信人プロは語る。

 以前、PGAツアーのサンダーソンファームズで優勝したマッケンジー・ヒューズを紹介しましたが、今回紹介するのは同じ週の欧州ツアー、アルフレッド・ダンヒルリンクスで今季2勝目を挙げたライアン・フォックスです。

 今季は2月のUAEで3年ぶりの優勝を完全優勝で果たすと、その後は2位が4回、3位が1回と安定した成績を収めてきました。メジャーでこそ振るいませんでしたが、その驚異的な飛距離は会場となるクエイルホロー向きだと、記者たちに早くからプレジデンツカップの候補に取り沙汰されていました。結果、選ばれませんでしたが、本人はそれよりもダンヒルリンクスで勝ちたい強い思いがあったようです。

実はフォックス家は、ニュージーランドでは知らない人がいないというスポーツ界の名家。父のグラント・フォックスは、87年の第1回ラグビーワールドカップでオールブラックス(NZ代表)の司令塔(スタンドオフ)として得点王に輝き、チームを優勝に導いた国民的英雄です。また母方の祖父のマーブ・ウォレスはクリケット界のレジェンドです。

 優勝したダンヒルは、プロアマ形式で行われます。昨年の同大会でフォックスは、「20世紀のクリケット選手のベスト5」にも選ばれたシェーン・ウォーンと組み、2位に。ところが今年3月、シェーンが心筋梗塞のためにタイのホテルで急死。弔いのような思いを抱いて今年は参戦したはずです。最終日に4打差を逆転。「戦いながらシェーンの存在を感じていた」と優勝インタビューで語りました。 

ゴルフを始めたのは10歳前後ですが、ラグビーやクリケットも含めた趣味・遊びの一つ。オークランド大学のロースクールに進みますがこの時点でHCは2。あくまでも最初は、ゴルフは厳しい勉強の息抜きでした。その後、本格的にコーチをつけ、アマチュアの試合に出場するようになっていきます。

21歳のとき、ある試合中に祖父が危篤であることを知らされ、4時間かけて車で駆け付け、その晩祖父は亡くなります。「やれることはないから試合に戻れ」。試合に戻りその週2位に。大きな試合で初めて2位に入り、プロになってもいいのではないかと思ったそうです。ジュニアからゴルフ漬けの選手が多いなかで、真剣にゴルフを始めたのが大学生になってから。父のグラントは息子を「子どもの頃からタフな子だった。メンタルが強く非常に我慢強い」と評しています。年齢的には35歳で中堅ですが、そのタフさで世界に名をとどろかすのはまだまだこれからかもしれません。

 リオ、東京と連続で五輪に出場、現時点で欧州ツアーのポイントランキングであるレース・トゥ・ドバイでは、ローリー・マキロイに次いで2位につけています。また世界ランクも26位まで上がり、来年は初のマスターズ出場もほぼ確実。マイケル・キャンベル以降、なかなか名手が出ていないニュージーランドですが、ゴルフ界はもちろん、「三代続けてのレジェンド」へのニュージーランド国民の大きな期待がかかっています。

画像: 「一番の特徴はタメの強さ。切り返しからのタメが強すぎてシャフトが体に当たってしまうのではないか、と思うほど。ドライビングディスタンス318ヤードで6位の飛ばし屋です」by佐藤信人(写真/Getty Images)

「一番の特徴はタメの強さ。切り返しからのタメが強すぎてシャフトが体に当たってしまうのではないか、と思うほど。ドライビングディスタンス318ヤードで6位の飛ばし屋です」by佐藤信人(写真/Getty Images)

※週刊ゴルフダイジェスト2022年12月6日号「うの目 たかの目 さとうの目」より(順位などのデータは11月13日現在)

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