コロナの影響で13試合の開催となった2020年に、6試合の予選落ちとベスト10フィニッシュは1回という成績で終えた青木瀬令奈選手は「若い世代の活躍と、コースセッティングが長くなってきたこともあり、予選カットラインが上がったことで1打足りずに予選落ちすることが多くなった」と苦しい戦いを強いられていました。
「シード権を落として引退になってしまうのかな」とモチベーションも下がり気味の青木選手と大西翔太コーチは、短縮競技で優勝した初優勝とは違う、3日間や4日間で戦って「ちゃんとした優勝をしたい!」と気持ちを新たに勝負の21年に向かいました。
すると6月の「宮里藍サントリーレディス」で4日間を戦い抜き見事に2勝目を挙げ、初の海外メジャー「AIGオープン」にも出場し、賞金ランク21位とキャリアハイの成績で終えました。「AIGオープン」の練習ラウンドでは自分とほぼ同じ飛距離の元世界ランク1位のパク・インビと回り、プレーのテンポやアプローチ、パットなど大きな学びもありました。
青木瀬令奈は4本のウッドと3本のUTを駆使
飛距離は出ないもののフェアウェイを外さないドライバーと、3・5・7・9Wと4本のウッド、4・5・6の3本のUTを駆使する青木瀬令奈選手ですが、それでも長いパー4では2打で届かないホールが数ホールはあります。しかし正確なショットとアプローチとパットでスコアメイクするというプレースタイルを確立させたことがキャリアハイの原動力になっています。
そして22年も1勝を挙げポイントランク11位の成績を残しましたが、シーズン後半の不振からオフには本格的なトレーニングを導入することを決め、最終戦の2日後から斎藤大介トレーナーの元を訪れ汗を流しています。
年末にそのトレーニングを見学させてもらいましたが、90分間みっちりと体幹と下半身を徹底的にイジめ抜く姿に、青木瀬令奈は間違いなく23年シーズンもツアーの中心人物の一人になることを予感させてくれました。
青木瀬令奈選手のスウィングで優れている点は、なんといっても芯を外さない正確なインパクトにあります。とはいえ、弾道を操るためにあえて芯を外してトウ寄りやヒール寄りで打つことも日常茶飯事。それだけハンドアイコーディネーション(手の動作と視覚の連動性)が高いということの表れです。テニスやソフトボール、バトミントン、卓球など、スピードのあるボールやシャトルにスピンをかけたり方向を決めて打ち返すときに必要な能力ですが、ゴルフでも大いに役立つ能力になります。
スウィングを見てみるとオーソドックスなスクェアグリップで握り、トップでは手元は頭よりも高く上げ、体を縦にねじるようにアップライトなスウィングプレーンで打ちます。
トラックマンなどの計測器のデータでもヘッドスピードに対するボール初速の割合を示すスマッシュファクター(ミート率)がとても高いので飛距離を伸ばそうとスウィングを改造するのではなく、今ある体力そのものを向上させることで、ボールを捉える感覚は残したままヘッドスピードを底上げする狙いだといいます。
もう一つ青木瀬令奈選手のストロングポイントである1ラウンド当たりの平均パット1位のパッティング。ショットだけでなくパットでもスライスラインを少しつかまえてフックをかけるように打ってみたりトウ寄りで打ち転がりを変化させるといった、その変幻自在の技術は目を見張るものがあります。
その技術はなかなか真似できませんが、以前パットの取材をした際に朝の練習グリーンでのコツを教えてもらいました。
「朝の練習グリーンでは手で芝を触り、指先で少し押してグリーンの硬さ(コンパクション)をチェックします。触った感触の硬さでピッチマークがつきそうだな(スピンで止まりそうだ)、(スピンはほどけて)前に跳ねてしまいそうだな、ということをチェックします。その次に芝が痛まないように軽くこすってみて芝の長さチェックします。これは最後の止まり際のボールの転がりに影響するので、カップ際で切れるのか抜けていくのかを感じます」
グリーンの状態を手で触って確認することで、ショットやアプローチでのスピンの入り方、パッティングのときのタッチや曲がり方の目安にしているという青木選手。スタート間に練習グリーンでボールを転がす時間がないときでも、グリーン面を触っておけばスタートホールからタッチを合わせられるというのです。
23年は複数回優勝と、ツアーを休止している親友の成田美寿々選手に自分の姿を見せ、また一緒にツアーで戦う日が来ることを目指して、正確なショットと技術の高いパッティング、それに飛距離をアップさせ開幕戦に臨んでくることでしょう。