1981年にクラブデザイナーだった故・竹林隆光氏が創業したクラブ設計会社、フォーティーン。国内外を問わず多くのメーカーから依頼を受け、クラブを設計した。
フィーリング重視だったクラブ作りに、いち早く「重心」という数値を取り入れ、データを蓄積し、誰も思いつかなかったような構造を実現してきた。
フォーティーンとは、「すべてのゴルファーにベストな14本を」という思いからつけられた社名。モデルごとにターゲットプレーヤーを設定したクラブ作りは、創業当初から変わらない。
「TB-5 フォージドはもともと、競技ゴルファーであるスタッフが年齢を重ね、練習機会も少なくなったが、やっぱり軟鉄鍛造アイアンでプレーしたい、という思いに応えて、やさしさを追求したモデルです。フォーティーンのアイアンはモデル名に冠される数字が機能を表しています」
「最もシビアなモデルが9で、7、5、3と数字が小さくなるにつれ、やさしくなっていきます。5シリーズは、程よいやさしさを持ち、前モデルTC-544も軟鉄鍛造のキャビティアイアンで、やさしく飛ばせると評価をいただいていました」
そう話すのはTB-5フォージドを企画したフォーティーンの池田純氏。
常識を疑え
「では、そもそも軟鉄鍛造を好む人が求めているものは何か? それを考えたときに、やはり“打感の軟らかさ”が第一ではないかと」
「マッスルバックの打感がいいのはフェースが肉厚だから。一方でキャビディ構造ではバックフェースを薄肉化して、やさしくすることと引き換えに打感を犠牲にしている。では、キャビティ構造の寛容性を落とさずに打感をよくできないのか? 試行錯誤を繰り返す日々が続きました」(池田氏・以下同)
そのうち、「なぜ、やさしい軟鉄鍛造はキャビティ構造なのか。何でこの形なんだろう?」と、かつて故・竹林氏がつねに実践して示してきた「常識を疑え」という言葉が浮かんできた。
ベースとなるTC-544のバックフェースを削り、平らにしてキャビティ構造のトウヒールの縦の壁を崩す。
そこに金属パテを盛りバックフェースのデザインを作っていく。削ったぶんの余剰重量を、ソール部とフェースの裏側に盛ったときに、低重心化と打感の向上が実感できた。
そこから削っては盛り、打って試す。これを数えきれないほど繰り返して、手作りのモックが完成した。
「自分が開発者ではないからできたのだと思います。開発者だと、これまでの常識や経験から『寛容性を求めるならキャビティだよね』と、こういう形にはなっていなかったでしょう」
「単純に、ゴルファーとして『打感をよくしたい。形はもっとシャープでカッコイイのがいい』という思いがあったから、この形が作れました」
完成したモックは開発チームに渡り、CADに取り込まれデータを整えて、マスターモデルが完成した。
「モックを渡すときに『湾曲したデザインにしてほしい』と言ったら、誰かが『劇場みたいだね』と言ったんです。そこから“シアター”となってシアターブレード(TB)という名が生まれたんです」
トウとヒール側になだらかな厚みを持たせ、バックフェースが湾曲した「シアターブレード構造」は「クラブは美しくなければならない」という創業時からフォーティーンが守り続けるテーマも具現化した。
「これも竹林が言っていた言葉ですが『きれいなレストランでも、厨房ではバタバタしている。そういうのは見せてはいけない』という思想が伝統的に受け継がれています」
「なるべく何かをしていることを見せない。それはTB-5フォージドに当てはまります。ターゲットはアベレージゴルファーなので、ややグースをつけ、つかまりをよくしています」
「ソール形状はフォーティーン独自のスクープソールではなく、やさしいウェッジDJ-4で培った、ユニバーサルソールをアイアンに初採用。アベレージでも使いやすく、インパクトでソールが滑ってくれます」
見た目は硬派な軟鉄鍛造、しかし打ってみればやさしく、マッスルバックに通じる打感と美しさ。発売から2年経ち、フォーティーン史上最高の販売数を記録している。
「今のところ完成形で、これを改良する余地はありません」。あと2年、モデルチェンジはしない。
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※週刊ゴルフダイジェスト2023年4月11日号より