マスターズウイーク中に撮影した4人のスウィングを、現地で観戦しているティーチングプロの吉田一尊氏に解説してもらった。
ジョン・ラームは、手元が低く、安定したフェード
間近で見ましたが、体が本当に大きい(188センチ)。体が大きいのでドライバーを持ってもショートアイアンに見えてしまう。
(ドライバーを)ライ角通りに構えていますが、(後方から見て)肩の真下に腕があるのは体が大きな証し。普通の人がドライバーを構えれば、腕は少なからず肩より前に出ます。彼のなかでは、普通の人のショートアイアン感覚で振っているのかもしれません。
ジョン・ラームの特徴は、レイドオフなコンパクトトップです。少しアウトに上げながらすぐに切り返し、インサイドからクラブを入れてフェードを打っています。
左手首の掌屈が強く、ダウンからインパクトにかけて前傾が深くなりますが、下半身(ひざ)は伸びていきます。この縦の動きが起こることでヘッドがトウダウンします。
トウダンはフェースが開きやすくなり、よりアウトサイドイン(カット)軌道で振りやすくなります。そうしたインパクト前後の動きでフェードを打っているのです。
本来、掌屈したままシャットフェースでインパクトを迎えるとヒッカケが出るはずです。それをトウダンさせ、フェースを開く方向にすることでスクエアに戻しているのです。
コンパクトなトップからの切り返しでは、手で下ろすのではなく、おじぎする(前傾が深くなる)動きで腕を下ろします。体で引っ張り下ろすようなイメージ。その影響で手元がとても低い位置になります。
手元が体から離れず、低い位置を通る。この再現性の高いスウィングが、アップダウンの大きなオーガスタでも安定してプレーできている理由のひとつです。
ローリー・マキロイは、カット意識が強く、ヒッカケに悩んだ
練習場で見ましたが、クラブを立てて下ろそうとする動きが目立っていました。クラブを立てて下ろすということは入射角がスティープ(鋭角)になります。
フェードやカットを打ってボールを止めたいという意識の表れのように感じました。ただ、カット軌道を意識するあまり、左へのヒッカケが出ていたのが気になりました。
マキロイはフェードに球筋を変えました。ハンドファーストにインパクトしていますのでボールを強く押しながらスライス回転をかけています。
その結果、キャリーも出て止まるフェードが打てるのです。アマチュアのこすり球とは違う、パワーフェードですが、マスターズでのスウィングでは、カット軌道を意識する影響で少しこすり球になっていました。
試合中もマキロイを見ましたが、ドライバーがいいとアイアンが引っかかる。アイアンがいいとドライバーが引っかかる、という感じでした。
上下の動きのバランスが上手く取れていないように感じました。ドライバーのヒッカケは、オーガスタでは特にリスクが大きくなります。
ドローを打とうとして右プッシュが出たら終わりですが、今大会のローリー・マキロイはフェードを打とうとして左プル(ヒッカケ)に悩んでいた感じでした。それが残念な結果につながったようです。
スコッティー・シェフラーは、現代のトレンドと真逆のスウィング
フェースをオープンに上げ、フェースローテーションで打つのがスコッティー・シェフラーです。今はシャットフェースで体を回して打つのが主流ですから、ある意味、真逆なスウィングになります。
その特徴は、インパクトで右足を後ろへ引く動きです。一見、個性的なように見えますが、往年の名手、グレッグ・ノーマンや岡本綾子さんと同じタイプです。ボーリングの動きをイメージするとわかりやすいかもしれません。
独特なのは頭が背中側に下がる動きです。これはクラブと頭の引っ張り合いを利用した動きで、頭が背中側へ動くことで、腕を前(胸側)に振り出しやすくしているのです。
頭が後ろに下がりながらハンドアップでインパクトしていますが、右足を引くことでオープンフェースを返しているのです。これらが引っ張り合う動きになっています。その結果、ヘッドが走るので、ボールも飛ぶはずです。
ジョン・ラームは、シャットフェースでフェースの開閉をあまり使わないタイプですが、シェフラーは真逆でフェースローテーションをたっぷり使っています。
左足軸のスウィングで左右の体重移動を使っていますが、左足軸はインサイドアウト軌道です。ですのでドローもフェードも両方打てます。
アマチュアの右足体重&カット軌道に悩む人は、シェフラーのマネをするといいです。右足を引くということは左足体重でないとできません。左軸で振れば、クラブはインサイドから下ろしやすくなります。これはインパクトで右ひざや右肩が前に出るタイプの人にもおすすめ。
スウィングを見ると個性派という印象が強く、自由に振っている感じ。アマチュアでの実績も十分ですし、ツアーでもすぐ優勝しています。ボールをコントロールするうえで天才的なセンスを持っていると感じました。
タイガー・ウッズは、右軸スウィングで体の負担を減らしていた
自動車事故で足に大けがを負い、今もリハビリを続けながらプレーしているタイガー・ウッズ。最新のスウィングでは、テークバックに大きなポイントがあります。
テークバックで右にシフトし、ダウンスウィングで左へシフトしていくのですが、その移動量を減らしています。テークバックではやや右へスウェイしているうようなイメージです。
左へのシフトが減ったということは右軸でボールをとらえることになります。右軸で回転するということは、クラブ軌道はアウトサイドイン軌道になります。つまりフェードが打ちやすくなるのです。
もうひとつの特徴が胸の向きです。胸を回転させる意識を強く感じました。以前はダウスウィングで胸を開かずに振り抜いていましたが、今のスウィングは胸がはやく回転しています。
体をねじるのではなく、体全体で回そうというイメージに近いです。上半身を回しているのでねじれを使わずに済みます。上半身と下半身のねじれ(捻転差)は体への負担も大きいですから。今の体にも合っているはず。
タイガーのラウンドを見ているとドライバーはフェードでしっかりコントロールし、逆にドローが必要な時は、3Wに持ち替えてドローをかけていく攻め方をしていました。
最後に余談ですが、大会前、オーガスタナショナルに訪れたタイガーは、記者会見で「ここに帰ってきて再び戦えることがとても嬉しい」と語っていました。
タイガー・ウッズはどんな順位にいても、パトロンの声援がどの選手よりもひと際大きくなります。見ていると、「来年以降もマスターズに帰ってきてプレーを見せてほしい」、そんな気持ちがわいてきます。やっぱり特別なスーパースターでした。(解説/吉田一尊、PHOTO/Blue Sky Photos)