父は娘が5歳のときに、一緒にゴルフを始めた
勝臣さんは会社経営者で、平日は仕事をしている。フルでのツアー帯同は不可能。だが、毎年GWに開催のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップでは、練習日から会場に駆け付けられる。昨年大会の初日。いきなり、大会コースレコードの64をマークして単独首位に立った山下美夢有は言った。
「何かを変えたわけではなく、しいてあげればスウィングのリズムに細心の注意を払いました。練習場と同じリズムでスウィングをする。トップで少し間を取ったらショットの精度が上がりましたった」
この細心の注意は、勝臣さんからのアドバイスを実践したものだった。結果、前週まで3試合連続予選落ちだった山下のショットは劇的に変化。残り3日も好調を維持し、同大会でメジャー初優勝を飾った。
山下は5歳からゴルフを始め、勝臣さんも同時にクラブを握った。そして、自身が実験的に試した練習やトレーニング法を娘に勧めてきた。山下も勝臣さんの教えを信じ、順調に成長。小学、中学、高校と数々のタイトルを獲得し、19年のプロテストにも一発合格を果たした。ツアールーキーの20年夏には、勝臣さんが約300万円の弾道計測器「トラックマン」を購入。山下の進化に繋げた。
ジュニア時代とは違い、離れている時間も多くなった。だが、その分、気づくこともあるようだ。昨年、山下がサロンパスカップで優勝後、取材陣に囲まれると、勝臣さんは「(山下のスウィングを)実際に見てタイミングが速くなっていたので、トップで少しの間を取るようにと確かに言いました。ずっと見てきたスウィングなので、ズレがあったらすぐに分かりますし、修正できますね」と言った。
父のアドバイスのおかげで年間女王に輝いた!
山下は昨年6月の宮里藍サントリーレディスで2勝目を飾って以降、ツアー史上3位の13試合連続トップ10入り。安定したプレーを続けたが、同10月のNOBUTA GROUPマスターズGCレディースで予選落ちした。その際は「自分ではどうにも修正できなくなりました」と嘆いていた。ラウンド後は会場から程近い兵庫・六甲国際GCの練習場でボールを打ち続けた。
勝臣さんは「(スウィング軌道の)イン・トウ・インが強くなっているので、スウィングアークを大きくして振りなさい」とアドバイス。たちまち調子を取り戻した山下は、優勝で年間女王を決めた伊藤園レディス最終日、実感を込めて言った。
「あの日、父と2人で練習をしました。それが一番心に残っていますし、教えてもらえたことが次の試合でも自信になりました」
昨季は終盤になると、勝臣さんは木曜、もしくは金曜から会場にいた。母・有貴さんは、その理由を「(勝臣さんが)いると安心するみたいで、『来てほしい』と言うので」と、それが山下の望みだったことを明かした。
だが、山下家では大学生で長男の勝将さん、高校生で次女の蘭さんもゴルフをしている。勝臣さんは2人のコーチでもあり、昨季ほど山下に時間を取れない状況にある。それでも、調子を落とした時には現場で駆け付けることだろう。ともに歩み、年間女王になった長女に“魔法”をかけ、蘇らせるために。