ワールドレディスサロンパスカップ(5月4~7日)で、メジャー初優勝を飾った吉田優利。妹・鈴もオーガスタ女子アマに2年連続で出場し、12日開催のRKB×三井松島レディスでは初日4位と好スタートを切るなど、吉田姉妹は、ゴルフ界で大活躍している。どうやって、娘たちを強くしたのか? 吉田家の子育て法は気になるところだが、お父さんからは意外な答えが返ってきた。
画像: 2018年、日本女子アマに初優勝したときの写真。その年、日本ジュニアを制すなど、アマチュア時代から活躍し、ナショナルチームでもゴルフを学んだ吉田優利(撮影/有原裕晶)

2018年、日本女子アマに初優勝したときの写真。その年、日本ジュニアを制すなど、アマチュア時代から活躍し、ナショナルチームでもゴルフを学んだ吉田優利(撮影/有原裕晶)

「熱い方々との出会い、そして時代の恩恵で、今の優利がある」(父)

「本当に我が家の子育てって、特別に書くようなことは何ひとつありませんよ」

今季初のメジャー大会、ワールドレディスサロンパスカップで、約2年ぶりのツアー3勝目、念願のメジャー初優勝を飾った吉田優利の父、英隆さんへの取材はこんな言葉から始まった。

「ボクはゴルフのことは何も知りませんし、ゴルフに関してほとんど口を出すことはありません。それに商売もしているし、そうそう試合会場に足を運べるわけでもありません。ただ、優利は運がいいのか、巡り合わせなのか、すごく熱い人たちに出会い、そして育ててもらったな、と感じています。それを遠くで見守っていたなんてカッコいいものではなく、ボクたちは本当に放任で、好きなようにやらせていたに過ぎません」

英隆さんによれば、優利が強くなったきっかけのひとつに、2016年のリオ五輪を挙げた。優利が麗澤高校1年の時で、ちょうどナショナルチーム入りを果たした時だ。

「ゴルフが112年ぶりに五輪競技になるということで、その前からゴルフ界がすごく盛り上がりました。それで優利もKGA(関東ゴルフ連盟)の選抜選手に選ばれて、関係者の方に“任せませんか?”と言われたんです。正直、ウチには3人の子ども(優利と鈴と弟)もいて、優利だけにつきっきりというわけにもいきませんし、NOなんても言えませんしね(笑)。それでお世話になったんです。

優利だけではありませんが、毎週のように家まで迎えに来てくれて、コースに連れていってくれて練習させていただいたんです。最初にレッスンを受けたコーチもそうだし、今のコーチの辻村(明志)さん、一緒に練習させてもらっている(上田)桃子さんもそうだし、熱い方々との出会い、そして時代の恩恵で、今の優利があると思っています。だから、親が育てたなんて、とてもじゃないけど言えません(笑)」

優利自身もワールドレディスの優勝会見で、

「私の両親はなかなか試合を見に来ないので、ドライに聞こえるかも知れませんが、そうではなくて、ゴルフには口出しをせずに私を尊重してくれているんです。私がやりたいことを好きなようにやれる環境に救われているので、この優勝で少し恩返しができたと思っています」

と、語っている。

「もっといろんなサポートをしたほうがいいのかな」と悩んだ父

画像: RKB×三井松島レディスで初日4位タイと好スタートを切った吉田鈴(りん)。オーガスタ女子アマに2年連続で出場(22年写真)するなど、世界女子アマランキングは7位(データは5月12日現在)を誇る(撮影/宮本卓)

RKB×三井松島レディスで初日4位タイと好スタートを切った吉田鈴(りん)。オーガスタ女子アマに2年連続で出場(22年写真)するなど、世界女子アマランキングは7位(データは5月12日現在)を誇る(撮影/宮本卓)

ワールドレディスでは、母の亜希子さんは会場に駆けつけたが、英隆さんは、

「前の晩に飲み過ぎちゃって……。起きてテレビをつけたら4番ホールでした(苦笑)」

というあたりも、吉田家の親子の距離感を象徴するエピソードだ。

もっとも、その距離感で英隆さん自身、悩んだこともあったという。というのも同年代の選手が次々と勝っていく。また優利自身も2年前に2勝を挙げたが、昨年は2位が5回と優勝に手が届かなかった。そんな時、

「自分の育てた方が甘いのかな。もっと会場に足を運んで、いろんなサポートをしたほうがいいのかなと思ったこともありました」

次々と若手が台頭するゴルフ界にあって、確かに親の存在が大きくなっている側面はある。会場への送迎はもとより、親がマネージャーやコーチとして支えているケースも少なくない。そんな一生懸命な親たちを見るにつけ、そんな思いに襲われた英隆さんの気持ちが理解できるというものだ。

「ただ、自分も仕事があるわけですし、プロのコーチに任せているわけで、ゴルフに関して口を出せる立場にもありませんからね。それに優利は小さい頃から本当に手のかからない子で、自分が決めた目標に対しては、自分でなんとかする子だと信じていたというか、そう願ってもいましたし。だからウチは本当にそれらしいエピソードもない、親が育てたんじゃなくて放任主義で、周囲の熱い方々によって育てていただいたんです」

21歳から居酒屋経営をしている英隆さんだけに、他の家庭と比べて子どもと触れ合う時間も少なかった。だが、そんな父の働く背中を、優利を始め3人の子どもは見ていた……。オフには英隆さんの経営する店で、1日店長を務める優利の姿は、そんな両親への尊敬と感謝の表れでもあるのだろう。

試合後、英隆さんの携帯に、めったに電話がないという優利から電話があった。

「良かったね」という英隆さんに、優利は、「良かったよ」と答えたという。

そんなやりとりもまた、適度で美しい、吉田家の親子の距離感のように思う。

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