「ゴルフのスウィングと、水泳の『背骨を軸とした回旋と面の動き』は共通点があるんです」というのは、元トップスイマーで体育教師歴42年の経歴を持つ松下利則プロ。今年のPGAティーチングプロアワードで最優秀賞を受賞した松下の教えを聞いてみよう。

"背泳ぎ"の動きとゴルフスウィングの共通点に注目した

水泳競技&体育教師一筋だった松下プロ。定年後、ゴルフの道に入った。「65歳で、まだ体も動くのでどうしようかなと思っていたときに、知人の大橋義幸プロご夫妻の勧めで、PGAのティーチングプロを知り受験したんです」。

ゴルフ歴は24歳から。当時は年間2ラウンドほどの“お遊びゴルファー”だったという。

「水泳部の顧問は55歳で教え子に引き継いで、見る人がいないゴルフ部の顧問に。このときも年に4、5回のラウンドしかしない90台ゴルファー。でも、ジュニア時代からゴルフしている生徒が入部すると、教えられない。レッスンを受け始め、それを子どもたちに教えていました。自分のスコアもよくなり、加茂CCに所属。週1回の月例会にも出てゴルフも面白くなっていきました」

HCは4になり、キャプテン杯で優勝したりもした。

「体育教師に大切なのは“真似”なんです。子どもたちには良い見本と悪い見本を見せないとダメ。口で言うだけでは皆ついてこないので、自分自身で子どもたちに見せることが必要なんです。また、体育は全種目を教えるので、公立高校時代に他のクラブと一緒に練習させてもらったりして、他のスポーツの勉強をしていましたね」

この真似は、自身のゴルフ上達にも役立ったという。

「中嶋常幸さんやセベ・バレステロスを真似した。構え方や、こうして体を保っているんやなとか。真似ができないと自分の体をどうしていいのか理解できません」

そして、スポーツには共通する基本の動きがあるという。

「常に正面で行うこと。テニスなら、ボールが飛んでくるところに体を持っていく。手だけで追ったりすると上手くいきません。ゴルフは横を向いて打ちますが、常に正面感覚は必要。たとえば飛んでいくボールを見ると軸がブレる。ゴルフでは、軸が左右にも動くし前後にも動く。すると打点が毎回変わり安定しません。軸をブラさないのが基本であり、今回のエクササイズのポイントです。また”しなやかさ”もスポーツに共通する”大事”。筋肉をやわらかくし、肩と肩甲骨を動かすことが一番です」

これはもちろん水泳も同じ。松下プロは水泳の動きとゴルフスウィングの共通点に注目した。

「水泳の選手は、ゆっくり泳いでいるように見えて、速く進んでいます。速い選手はひじから指先までを使い、水を逃がさないようにして推進力にしている。そのためにタメが必要なんです。これがゴルフスウィングのタメと同じ。女子プロがゆったり振ってヘッドを遅らせて打つイメージですね」

ポイントは①体の柔軟性②背骨の軸を中心とした回旋運動③腕を加速させながら動かすこと④腰・背中・腕への筋肉の連動と関節の運動連鎖。

「これは背泳ぎの体と腕の動きと似ています。腕を上げたときの姿勢はトップと同じ。体を回しながら、わきを締めて手を引っ張ってくる。最後に腰の下にきたひじを中心に体の回旋とともに前腕を回内させながら水をプッシュする。この感じがバックスウィングからインパクトまでのイメージです」

画像: スウィングと背泳ぎの動き(左)の共通点。バックスウィングでは「背骨を軸として体を回旋」させ、トップでは頭を動かさずに体を回旋することで「前傾角度を保つ」につながる

スウィングと背泳ぎの動き(左)の共通点。バックスウィングでは「背骨を軸として体を回旋」させ、トップでは頭を動かさずに体を回旋することで「前傾角度を保つ」につながる

バックスウィングは「背骨を軸として体を回旋」させる。“面”は開閉させず、ヘッドは遅れて上げる感じ。水泳では水の中で手を上げると肩でブレーキがかかるので水面から肩を出して回すイメージ。トップは「前傾角度を保つ」。頭を動かさずに体を回旋。水泳では、ひじを伸ばして手を肩から上げていく。このまま前傾すると、スウィングのトップの形になる。

画像: ダウンスウィングの「右ひじを絞る」動きが、スウィングでも背泳ぎでも共通の動き。インパクトでは面を変えずに「そのまま押す」動きのイメージ

ダウンスウィングの「右ひじを絞る」動きが、スウィングでも背泳ぎでも共通の動き。インパクトでは面を変えずに「そのまま押す」動きのイメージ

ダウンスウィングは「右ひじを絞る」動き。ひじを中心にクラブだけが落ちてくる感じ。水泳では水面より上に手を上げると空気抵抗になるので、ひじを体に近づけてきて浮力と推進力を得る。そしてインパクトは「そのまま押す」イメージ。肩のローリングを使い、そのまま面を変えずに押していく。水泳の、前腕を回内させながら、水をプッシュする動きのイメージだ。

スイムエクササイズは肩回りがやわらかくなり、体力向上にもつながる

「体力は17歳頃をピークとして低下し、50歳を越えると急激に低下するんです」と松下プロ。

「でもご心配なく。エクササイズをすれば、いくつになっても体はやわらかくなります」と、教え子たちが付けたというあだ名“ラオウ”らしからぬ優しい笑顔で話す。

「やはり、腕力を使いヘッドスピードだけを上げれば飛ぶと思っているアマチュアは多い。でも僕よりヘッドスピードがあるのに失速したり、1発は当たってもあとはスライスしたりする。ただボールを打つことばかりをやっていくと、特に男性は腕力を使いがちです。腕の筋肉は足腰ほどは衰えないので打てると思ってしまうんです」

飛ばしの3要素は「ボール初速・打ち出し角・バックスピン量」だと松下プロ。

「なぜ飛ばないのかと言うと、体の軸が動いたり前傾角度が変わり、インパクトでの当たり方が毎回違うからです。軸を中心に効率よく当てることできちんと飛びます。大事なのは軸を絶対に動かさず、背骨を中心に体を動かすこと。オリンピックメダリスト(背泳ぎ)の入江陵介選手もペットボトルをおでこに乗せて落ちないように練習するんですよ。ボールを打たずに体を動かすことが大事です」

松下プロ考案のエクササイズは、水泳の動きとトレーニングからきているが、

「肩周りのエクササイズをメインに10回を1セット行っただけでもかなりしんどい。肩ってなかなか回ってないんです。そこをやわらかくしていく。座って行うほうがやさしいので、それでやっていきましょう。でも、常に呼吸しながらの運動なので、心肺機能も高まりますし、肩・肩甲骨の血流がよくなり柔軟性が高まります。それに皆さんスウィングがすごく安定するんです」。

体力強化やゴルフにつながるスイムエクササイズを一部ご紹介(クロールエクササイズ、バタフライエクササイズ)。

「日頃から取り組むと、どんどん体力が上がりますし、打ってみたら飛んでる! となる(笑)。地道にやりましょう、いうことです。これから何年先でも、しっかり体が回るようにしていきましょう」

画像: クロールエクササイズ。クロールの「引く動き」を、スウィングにも取り入れるためのエクササイズ

クロールエクササイズ。クロールの「引く動き」を、スウィングにも取り入れるためのエクササイズ

クロールエクササイズは10回×3セット行いたい。クロールには引く動きがあり、これをスウィングに取り入れる。「指先を肩に置き、軸を中心に前傾しながら、頭と背骨を動かさずに、左肩を真っすぐ前に出し、右肩が後ろにしっかりいくように動かす。この動きに腕がつくのがクロールです」。

画像: バタフライエクササイズ。バタフライのように、腹筋と背筋を使いながら手を回すエクササイズ

バタフライエクササイズ。バタフライのように、腹筋と背筋を使いながら手を回すエクササイズ

バタフライエクササイズも10回×3セット。バタフライは、腹筋と背筋を使いながら手を回す。「指先を自分の足のつま先につけて、頭の後ろから腕を使って手を上げ、肩を意識しながらひじから回す感じで動かす。バンザイになってはダメ。息を吐きながらゆっくり行いましょう」(松下プロ)

※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月30日号「スイムストレッチで飛距離アップ」より

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