思えば、金谷拓実と中島啓太のライバル関係は、8年前から始まったのかもしれない。
2人の最初の出会いは2015年の日本アマチュア選手権。中学3年の中島啓太と高校2年の金谷拓実が、決勝でマッチプレーで戦い、金谷が10&9で史上最年少優勝を果たした。
2人ともに世界アマ1位を経てのプロ入り
その後、ともにJGAのナショナルチームに入り、海外経験も積んで、2019年に「週刊ゴルフダイジェスト」の企画で対談してもらったのは、金谷が世界アマランク1位になったときだった。中島が「金谷さん、世界一になって何か景色は変わりましたか?」と聞くと金谷は「ぜんぜん変わらない。それが最終目標ではないから。目標を達成すればまた違う目標がきて、それを達成していけるかどうかが大事」と答え、「かなわないです」と中島は笑った。
しかしその後、中島も世界アマランク1位となり史上最長(87週間)その地位を守ることとなった。切磋琢磨し合う先輩後輩でよきライバル。年々、お互いを高め合う存在になっていったのだと思う。
筆者は、2人に話を聞くたび、集中力の高さと自分との向き合い方に感心していた。それがナショナルチームの教えだったとしても、自身で消化し実行するのは才能だ。また、2人は言葉を持っている。ただし、試合後のインタビューなどは対照的だ。
金谷は常に、「いつも通り、自分らしくプレーする」と言うが、“決まり文句”を繰り返すこのブレのなさが、粘り強く、あきらめないプレーにもつながっているのだろう。「孤高のタクミ」なのだ。
一方の中島は、「しっかり準備するだけです」と言いつつ、お茶目さものぞかせながら話をする。「愛されケイタ」か。それについては金谷が、「またかわい子ぶって」と突っ込んだりする。
2人は、ゴルフへの取り組みや考え方はもちろん、お互いの‟強み”をリスペクトしているのだと思う。以前、中島は「金谷さんはそんなに感情は出さないけど内側にある気持ちがすごいと思います」。金谷は「僕は一生懸命泥臭くやっているけど、啓太くんはゴルフが全部綺麗なんです。部屋も整理されていて、心も綺麗(笑)」と言っていたが、最近の中島はガツガツしてきたように見受けられるし、金谷は脱力というスマートさも身につけつつあるように思える。
今回、ASO飯塚チャレンジドの3日目にラウンドを間近で見たが、2人の空気感がより研ぎ澄まされていたのを感じた。これはプロゴルファーとしての成長以外の何物でもない。まったく話をしない2人を見て、それぞれの準備と集中、そして自信がひしひしと伝わってくる。
ナショナルチーム時代、海外遠征では同室になることが多かった2人。その頃はプライベートやゴルフのこと、いろいろ話をしていたというが、今年に入り、中日クラウンズ以降、挨拶と「ナイスプレー」などの言葉以外は交わしていないという。
プレーで応える関係性。試合前、前週のツアー選手権での17番パー4の金谷のセカンドショットについて「凄すぎて笑うしかなかった」と言った中島。しかし、ASO飯塚チャレンジドのプレーオフ2ホール目のセカンドショットで「もう、あっぱれです」と金谷に言わしめたスーパーショットを放って優勝した。
こんな試合を日本の男子ツアーでも見られるんだ
2人の緊張感と熱量がギャラリーに伝わり、それがワクワク感に変わっていく。だから、思わず声援をあげてしまう。こんな試合を日本の男子ツアーでも見られるのだ、とギャラリーの心にポッと灯がつけばいい。
今回コースセッティングを担当した佐藤信人によると、「雨の影響で昨年より(フェアウェイもグリーンも)柔らかくなり、プリファードライも2日間適用され、風も吹いていないこと。反面、ピン位置は昨年よりは厳しめにしていることを考えると、昨年と同じくらいの優勝スコア(23アンダー)になるのでは、と思っていました」。3日目終わった段階で、上2人のスコア(金谷25アンダー、中島22アンダー)にはちょっとびっくりしていました」
会場の麻生飯塚ゴルフ倶楽部は、6809Y・パー72と決して長くはないが、ドッグレッグが多く戦略性が高いコース。ショット力とパット力が噛み合わないと、ここまでのビッグスコアは出ない。もともとの実力はもちろん、2人は今、調子もよくノッている。
試合後のインタビューで、勝負が決まった直後、肩を抱き合ったときに何を話したかを問われると、金谷は「それは秘密です」と言ったが、中島は「すごくよかったと言ってもらえて嬉しかった」と即答していた。2人の個性と、いい関係性が伝わる。
冒頭の頃から変わらず、世界で活躍することが目標の2人。金谷はここ数年、世界転戦で苦しい思いをしていたけれど、アジアンツアーのインターナショナルシリーズ・オマーン(今年2月)での優勝から、本来の自分らしさを取り戻したようだ。中島はプロ入り後、調子は悪かったが焦りはなかったというが、初優勝で弾みがつくに違いない。
2人の次の、世界の舞台は7月の全英オープン。KとN、タクミとケイタ、今後、何度も最終日をともにし、痺れる戦いを見せてくれるだろう。できれば、海外メジャーで見たいなあと思うのは、私だけではないはずだ。(週刊ゴルフダイジェスト編集者YS)
PHOTO/Shinji Osawa