ゴルフを始めたジュニア時代、就職も考えた大学時代
2016年の小誌ビューティクイーンに選ばれた高野あかりが、ステップ・アップ・ツアー「地域みらいグループレディス佐喜窓乃梅カップ」でプロ初優勝を飾った。
ツアー参戦6戦目でのスピード優勝となったが、どんなゴルフライフを過ごしてきたのか? ジュニア時代について聞いてみた。
「ゴルフを始めたのは10歳からです。父がゴルフ好き(元クラチャン)だったので、小さい頃から練習場によく行っていました。最初は3歳上の兄が始めて、私も遊びでゴルフをするようになりましたが、本格的に取り組むようになったのは高校からです」
高校はゴルフで選んだ。拓殖大学紅陵高校ゴルフ部に入り、ゴルフにどハマりしたのだ。拓大紅陵といえば、ツアー通算13勝を誇る成田美寿々の出身校でもある。
「高校のゴルフ部に入ったことでゴルフが楽しい、もっと上手くなりたいって思うようになりました。私の世代はそれほど強くなかったのですが、ひとつ下に川﨑志穂がいて、その世代は強かったですね。全国大会にも行っています。私は団体では全国に行きましたけど、個人では目立った成績は残せませんでした。でも高校でゴルフに夢中になれたことで、プロを目指そうと思ったんです」
プロへの決意が生まれた高校時代を過ごした高野は、卒業と同時にプロテストに挑戦するかと思いきや、進学という道を選んだ。
「高校では成績が残せなかったので大学へ進学し、もっと試合や経験を積もうと考えました。卒業してすぐにプロテストを受けたとしても、合格できるレベルではなかったと思います。大学は実家から通える法政大学を選びました。ゴルフが強いわけではないですが、大学に行けば、たくさん試合に出られます。実は本音をいうと、就職を考えての進学でもありました」
ツアーで活躍する女子プロの多くは、ジュニア時代から数多くの実績を残している。いわばエリートだ。一方、高野は高校まで何の成績も残せていなかった。その結果、就職も考えた進学という道を選択したのだ。そして4年間、真剣にゴルフに取り組むことで、個人で全国大会出場を果たした。
「2016年の日本女子アマ、日本学生は予選落ちでしたが、翌年はどちらも決勝ラウンドまで行きました。結果は良くなかったですが、全国大会出場を目標にしていたので、とりあえず達成できたという思いはあります。決していい成績とはいえないですけどね」
2017年の日本女子アマは54位タイ、日本学生は16位タイの成績だった。前年には団体戦で関東女子学生優勝も経験している。
5度のプロテスト挑戦→合格→初優勝への体力強化
そして大学を卒業後、高野はプロテスト1次予選に挑むも1次で敗退。
「記憶にないくらい、めちゃめちゃ大叩き」をしたという(3日間・15オーバー)。
ここからプロテストへの挑戦が始まった。
「2回目は最終プロテストまで行きましたが55位タイ。3回目は32位タイという結果で合格とはなりませんでした。そして4回目は1打足りず2次予選で敗退。これはショックでした。もう終わりにしようかと考えたくらいです。プロテストにも歳下の若い選手がどんどん入ってきていましたから、年齢的にも厳しいのではないかと。でも、まだやり切れていない、そう思ったんです。両親の支えも大きかったですね。そして昨年、5回目の挑戦でやっと合格できました。めちゃめちゃ嬉しかったです。最終日は吐きそうなくらいプレッシャーもありましたが、合格できてホッとしました」
ひとつの夢をかなえた高野は大きな安堵を感じつつ、プロというプレッシャーも感じていた。
「プロになれた安心感はありましたが、同時にもっとレベルを上げなきゃと思いました。私は技術もメンタルもマネジメントもまだまだ足りません」
晴れてプロとなった高野は、プロ1年目の資格でステップ・アップ・ツアーに参戦している。シーズン前、ツアーを転戦すること自体、想像がつかないと語っていた高野は、どんな準備をしてシーズンを迎えたのか?
「まずは体力をつけることを考えました。1年間戦える体作りは、不可欠だと思ったからです。3~4年前から4スタンス理論をベースに指導する西野貴治コーチに教えてもらっているのですが、フィジカルにも詳しいのでトレーニングのアドバイスをもらいながら体力強化に努めました。技術的な取り組みとしては、ドライバーの飛距離アップです。平均で235Yくらいなので、あと10Yは伸ばしたいです」
パッティングの専門家からのアドバイス
高野の武器はアイアンショットだ。120Y以下のショートアイアンを最も得意とし、ドローやフェード、球の高低まで打ち分けられる自信があるという。
ピンをデッドに狙い、バーディチャンスを作るプレースタイルだ。昨季のプロテストでもドライバーの調子は悪かったが、アイアンでチャンスメイクができたと語っている。
「西野コーチの指導は、とてもシンプルです。スウィングの形、たとえばトップの位置、クラブの上げ方や下ろし方などではなく、体が正しく動けるようにアドレスや体の使い方をアドバイスしてくれます。『ゴルフってこんなに考えることが少なくていいんだ』って思えたことが、自分のなかでは大きいです。ゴルフに対する考え方もすごくクリアになりました。そこが私には合っていた気がしています。
でもひとつだけ、大きな不安要素がありました。それがパッティングです。もともと苦手意識が強かったこともありますし、ライン読みも上手くできなかったんです。ショートパットすらあやしい感じでしたから……」
シーズンに向け、取り組んだ大きな課題のひとつがパッティングだ。高野はパッティング専門の橋本真和コーチにアドバイスをもらったという。
「メトロノームを使ったテンポを教えてもらいました。とてもベーシックなものですが、テンポだけに集中すると考えすぎがなくなるんです。タッチが合うようになり、リズムよくストロークできるようになりました。その効果か、試合でも迷いなくパッティングができています。ライン読みはまだまだ未熟といえますが、イメージは作れるようになってきました。だから以前ほど、苦手意識はなくなっています」
「ステップ・アップ・ツアーで賞金ランク2位以内を目指します」(高野)
さまざまな準備を行い、ツアー開幕を迎えた高野。そしてステップ・アップ・ツアー6戦目「地域みらいグループレディス」でプロ初優勝を成し遂げた。
最終日は首位と2打差、3位タイからのスタートだった。最終日のプレーについて高野はこうコメントした。
「正直、びっくりしました。15番ホールまでリーダーボードがなくて自分の順位もよくわからない状況だったからです。15番でボードを見て初めて自分がトップに立っていることを知りました。試合が開催された武尾GC(佐賀)は距離の短いパー4が多く、グリーンもそれほど硬くなかったので、伸ばし合いになると思っていました。まさか自分がトップにいるとは思いませんでしたね。
勝因はパー4でバーディがたくさん取れたことです。グリーンを狙うアイアンショットが良かったです。実は練習ラウンドは調子が良くなかったのですが、ラウンド後、西野コーチに電話してアドバイスをもらったことで調子が取り戻せました。初日の4アンダーは、自分でもいいゴルフだったと思っています。最終日の18番パーパット(ウイニングパット)は、かなり緊張しました。パットにも助けられましたね」
ツアー6戦目でプロ初優勝を成し遂げた高野は、9戦中5試合で予選落ちも経験している。
奇跡ともいえる初優勝に見えるが、あきらめずに夢を追い続けたからこそ、プロになれたし、自分の課題に向き合い、入念に準備したからこそ、プロ初優勝がつかめた。自分がやるべきことをやり続けていれば夢は叶う。そう体現してくれているかのようだ。
今季の目標を達成した高野。次なる目標は?
「ステップ・アップ・ツアーで賞金ランク2位以内を目指します。2位までに入れば、来季のレギュラーツアー前半戦の出場権が得られるからです。そのためにも優勝は必要ですし、上位争いも大事です。今まで全国レベルで勝てたことがなかったので、今回の優勝は大きな自信になりました」
1歩1歩、歩みを進める高野にまたひとつ自信が刻まれた。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号「高野あかり~夢を追い続けてつかんだキセキ」より