昨年の全米女子アマを制した馬場咲希さんを、中学1年から指導しているのがプロコーチの坂詰和久(さかづめかずひさ)、通称『わきゅう』だ。坂詰コーチと20年以上の付き合いがあるベテラン編集者Oが、謎キャラコーチの気になる話を聞き出す! 今回は「トランジション」という動きがテーマだ。
画像: ケガをする前(2019年)のタイガー・ウッズ。そのダウンスウィングを見ると、トップの位置に頭を残したまま、骨盤が左にスライドし、左脚が線の外に出ていくのがわかる

ケガをする前(2019年)のタイガー・ウッズ。そのダウンスウィングを見ると、トップの位置に頭を残したまま、骨盤が左にスライドし、左脚が線の外に出ていくのがわかる

タイガーは、下半身を使い切ってスウィングしている選手の代表

O編 前回、前々回と、手を振る動きを抑える方法を聞いたけど、手を使わないでスウィングするとか、下半身を使って打つっていうのは、アベレージゴルファーにはなかなか難しい作業だよね。

坂詰 そうですね。まぁ、プロでも手の動きを完全に抑え込むのは難しいですからね。手を振っているプロもたくさんいますし、アマチュアの方は多少手を使っていても気にする必要はないと思いますよ。
 
下半身にしたって同じです。プロがみんな下半身を使い切ってスウィングしているかといったら、そうではないですからね。

O編 そうなの?

坂詰 たとえば、ケガをする前のタイガー・ウッズなどは、下半身を使い切っている代表だと思いますので、そのスウィングを見てみましょう。
 
アドレスのときに、左のくるぶしから垂直に線を引いておいて、スウィングをコマ送りしていくと……。ほら、切り返しからダウンスウィングにかけて、左脚が線の外に出てくるのがわかりますよね。

O編 あぁ、その動きがあることは、昔、江連(忠)プロから教えてもらったから知ってるよ。

坂詰 この動きはトランジションと呼ばれているんですが、切り返しからダウンスウィングにかけて、下半身をしっかり使うと、骨盤が左にスライドするので、左脚が線の外に出てくるんです。
 
正直、USPGAツアーの選手などは、ほぼ全員がこの動きでスウィングしているんですが、日本の女子ツアーの場合、この動きのない選手も結構いるんですよ。

O編 そうなの?

坂詰 構えたその場で回転するようなスウィングだと、骨盤があまりスライドしないんです。でも、それって、まだまだ下半身を使える余地があるってことなんですよ。

O編 その動きができたらもっと飛ぶってこと?

坂詰 ええ。220~230Yくらいの選手だったら、トランジションができれば、あと10~20Yは飛ぶんじゃないでしょうか。

上半身を動かさずに下半身を動かす「分離動作」が大切

O編 骨盤がスライドしないのは、左への体重移動が足りないから?

坂詰 ん~、そうなんですけど、単純に左に体重を移そうとすると、全身が左にスライドしやすいので注意しなくちゃいけないんです。
 
バックスウィングでは頭が少し右に動きますよね。そうしたら、頭をトップの位置に置いたまま、下半身だけを左にスライドさせたいんです。ところが、大体の人が、頭も左についていっちゃうんですよ。

O編 頭をトップの位置に置いたまま腰をスライドさせるためにはどうしたらいいの?

坂詰 ここで必要になるのが分離動作、つまり、上半身を動かさずに、下半身を動かすことなんです。上半身をトップの位置に置いたまま、右足で地面を踏む。そうすると、骨盤が左へスライドするんです。
 
ただ、本来は、手の動きを抑え、足踏みをするようにスウィングして、そこに体のローテーションが入れば、骨盤は自然にスライドするはずなんです。しないのは、やはり手を振っているからなんですよ。手を振れば振るほど、下半身というのは動かなくなりますからね。

O編 手を振るためには、体を止めなくちゃいけないもんね。

坂詰 もちろん、手を振ると言っても、アマチュアのように使っているわけではありませんよ。でも、女子プロでも手を振る動きが入る選手が多いことは確かだと思います。

O編 そのトランジションの動きは、アマチュアも目指すべきなの?

坂詰 いやぁ、プロならともかく、アマチュアの方は、そこまでの精度を求めなくてもいいんじゃないでしょうか。練習量が少ない人には難しいですし、身につけるにはプロでも時間のかかる作業ですしね。

O編 ちなみに、わきゅうだったら、選手にどんな練習をさせるの?

坂詰 トランジションの動きを意識しながら、徹底的にシャドースウィング(クラブを持たない素振り)を繰り返させます。TPIのトレーナーなどは、①クラブを持たずにバックスウィングしたら、②トップから上半身を動かさずに下半身だけ左に回旋させ、③そこからフィニッシュまで体を回していく、という3段階のシャドースウィングを勧めていますね。

O編 何か、そういう練習はアマチュアにもよさそうだけどねぇ。

坂詰 あ、それはどんどんやってもらっていいと思います。トランジションの動きは完璧にできなくても、そういう練習をすることで、手先を振る動きから、下半身で振る動きに近づきますからね。その少しずつの変化は、確実にショットの精度を上げてくれると思いますよ。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月18日号「ひょっこり わきゅう。第24回」より

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