ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は「苦悩と復活」を味わったスター選手、ジェイソン・デイについて語ってくれた。
画像: シーズン開幕時の世界ランクは160位台、5月のバイロン・ネルソンで復活優勝した35歳のジェイソン・デイ(写真は23年全米オープン Photo/Blue Sky Photos)

シーズン開幕時の世界ランクは160位台、5月のバイロン・ネルソンで復活優勝した35歳のジェイソン・デイ(写真は23年全米オープン Photo/Blue Sky Photos)

腰痛に悩まされ、世界ランクも下がり続けていたジェイソン・デイ

5月のバイロン・ネルソンで、18年のウェルズファーゴ以来、5年ぶり13勝目を飾ったジェイソン・デイ。かつての世界ランク1位の復活優勝を嬉しく思うとともに、家族を含む周囲の大変さや、これからもケガや病気、スウィングの悩みとの闘いは続いていくと思うと、プロゴルファーという職業を続けることの苦しみの深さも感じざるを得ません。

優勝を決めた最終日は母の日。この大会はキャディのポンチョに母の名前を入れられる粋な企画がありました。デイが登録したのは「Adenil」。昨年3月に亡くなった母の名前でした。最終日の1番ホール、それを見たデイは改めて、父を亡くした12歳から女手ひとつで育ててくれた母のことを思い出したそうです。コースは変わりましたがこの大会で13年前に初優勝。スターダムを駆け上がるきっかけでもありました。

今回、デイが家族と撮った優勝の記念写真に歳月の流れを感じました。5年前にはまだ小さかった長男が11歳に、その下に3人の子ども、そして奥さんの大きなお腹には5人目の子どもが。ケガ、病気、母との別れ……家族と一緒に闘ってきた5年間が、ぎっしり詰まっているかのような写真です。

ボクの記憶に残るデイといえば、15年、チェンバーズベイで開催された全米オープン。ジョーダン・スピースが優勝した大会です。最終日をトップタイで迎えたデイですが、試合中に目まいで倒れた衝撃的な映像は鮮明に覚えています。

次に印象深いのが17年のWGCデルテクノロジーズマッチプレー。初日の5ホールで途中棄権したのですが、その記者会見で泣き崩れたのです。理由はオーストラリアにいた母が、がんのステージ4の宣告を受けたこと。その後、精彩を欠いた感は否めません。しかし母をアメリカに呼び寄せ治療に専念させることで、心の安定を取り戻したのでしょう。

18年に入ると1月のファーマーズ、5月のウェルズファーゴで2勝を挙げ、復活します。つくづくゴルフはメンタルなスポーツだと思います。

しかし、今度は腰痛に悩まされます。19年からは棄権や欠場が増え、上位に来ても、コンスタントに続くことはなくなりました。当然、優勝からも遠ざかり世界ランクも下がり続けます。

23年の開幕時は160位台。この頃には、記者の間からも引退がささやかれ、LIVゴルフに行かないことを不思議がる声もありました。

腰痛の原因がスウィングにあとされ、保護者的存在のコーチ兼キャディのコリン・スワットンと別れ、クリス・コモとスウィング改造に取り組みます。当人によればデイのスマホには8000の動画があり「そのうち7999はスウィング映像」。何かあると深夜1時、2時でも、コモに電話してアドバイスを仰ぐそうです。

スウィングを見てみると、以前は下半身はなるべく動かさず、上半身との大きなねじれを作って力を出していました。それが腰痛の原因であるとみて、今はバックスウィングで下半身も一緒に回していくようになっています。

いつ引退してもいい、ゴルフを一生やるつもりはない、というコメントもしていたデイ。しかし、気持ちが引退に傾く度、奥さんが気持ちをゴルフに向けさせてきたようです。人気選手のデイ、これからの生き様にも注目したいですね

※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月25日号「うの目 たかの目 さとうの目」より

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