ロイヤル・リバプールでおこなわれた今季メジャー最終戦第151回全英オープン最終日は時折雨が激しさを増し、全英らしい鈍色の空に覆われた。そんななかジョン・ラームやローリー・マキロイの追撃を許さずブライアン・ハーマンが6打差の圧勝。表彰式でローアマに輝いた203センチのクリスト・ランプレットと並ぶと170センチで36歳の小ささが際立った。しかしプレーの内容と度胸は巨人クラス。知られざる新チャンピオンの魅力を探る。

オーガスタナショナルのほど近くジョージア州サバンナに生まれたハーマンはサウスブリッジGCに隣接する住宅地に2歳のときに引っ越した。父は歯科医で母は文学者。両親はゴルフは嗜まず、息子をプロゴルファーにするつもりもなかった。そのためハーマンは「ゴルフ場の敷地内に住んでいることを物心ついてからも意識していなかった」という。

画像: 海外メジャー「全英オープン」を制したブライアン・ハーマン(撮影/姉崎正)

海外メジャー「全英オープン」を制したブライアン・ハーマン(撮影/姉崎正)

小学生時代夢中だったのは野球。父はサッカーが得意で母はトライアスロンに挑戦するほどのアスリート。本人も体を動かすことが大好きで野球チームではショート&1番バッターを任され俊敏さと機転の利くプレーで活躍した。

12歳になりようやく実家の周りの環境に気づきゴルフに目覚めたころ、ちょうどタイガー・ウッズがマスターズを制し周囲にゴルフ熱が巻き起こっていた。だが少年が憧れたのはスティーブ・ジョーンズ(96年全米OPチャンピオン)。体調が悪く学校を早退して何気なく見たフェニックスオープンでジョーンズが優勝する姿を見て「僕もゴルフをする」と翌週から毎日ゴルフ場に通い始めた。

「当時持っていたクラブはどこかから寄せ集めた6本だけ。ドライバー、3番、5番、7番、9番アイアンとパター。それを自転車に積んでコースに通った。右利きだったけれど野球は左打ちだったのでゴルフも左打ちになった」

ゴルフセンス抜群の少年はあっという間に腕を上げ、ジュニアの世界で頭角を表すとジョージア大のゴルフ部で活躍。気性が荒く大学の先輩・今田竜二は「僕が彼のサングラスを踏んで壊してしまったことがあって、それを今でも恨みに思っている」と苦笑いする。

プロ入り4年目のジョン・ディア・クラシック(14年)で初優勝。17年のウェルズファーゴ選手権で2勝目を挙げたがそこから今回の全英まで6年勝てなかった。それでも持ち前のショートゲームを武器に今季は2位が3回。いつ勝ってもおかしくない状況が続いていた。

最終ホール、バンカーからの4打目を3メートル弱に寄せた瞬間ポーカーフェースだったハーマンがはじめて白い歯を見せた。勝利を確信し安堵した瞬間だ。大量リードに守られながら最後まで緊張感を崩さなかった。

試合後記者会見で最近彼が情熱を傾けているハンティングについて尋ねられると「先日ハンティングフィールドの芝を刈って整備するための新しいトラクターを買った。1日かけて芝を刈る作業に没頭するつもり」。それが優勝のご褒美? 「まぁ、そういうことです。オレンジ色の105馬力kyobotaトラクター(おそらくkubotaのトラクター)」。おいくら? 「妻にいくらだったか話していないので内緒」。

300万ドル(約4億2千万円)稼いだのだから奥様も文句はないだろう。

それにしてもトラクターでの芝刈りが優勝のご褒美とは。「そう、僕は剥いても剥いても何か出てくる玉ねぎみたいに何層にも魅力が重なっているんだ」。新チャンピオンはかなり自信家だ。

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