昨年の全米女子アマを制した馬場咲希さんを、中学1年から指導しているのがプロコーチの坂詰和久(さかづめかずひさ)、通称『わきゅう』だ。坂詰コーチと20年以上の付き合いがあるベテラン編集者Oが、謎キャラコーチの気になる話を聞き出す! 今回は「体を使い切るスウィング」がテーマだ。
画像: 骨盤が左にスライドし、左脚が線の外に大きく出ていくフリートウッドのダウンスウィング。骨盤が左にスライドする動きが人一倍大きいため、ダウンで頭を右に動かしてバランスを取っている(Photo/Blue Sky Photos)

骨盤が左にスライドし、左脚が線の外に大きく出ていくフリートウッドのダウンスウィング。骨盤が左にスライドする動きが人一倍大きいため、ダウンで頭を右に動かしてバランスを取っている(Photo/Blue Sky Photos)

トランジションの動きは体を使い切っている証拠

O編 先週、教え子の中野麟太郎くんが日本アマを制したね。おめでとう。

坂詰 ありがとうございます。

O編 資生堂レディスでは、宮田成華プロが4位に入ってたし、わきゅうの教えてる選手は好調の人が多くていいね。

坂詰 いやいや、あんまり注目しないでください。ボクは、なるべく目立たないように、ひっそ~りとやっていきますから……。

O編 相変わらずだなぁ。ま、いいや。じゃ、前回の続きね。前回は、トランジションの動きについて聞いたよね。トップからダウンスウィングにかけて、腕を振らず、下半身を使って体重移動を行うと、頭がトップの位置から動かずに、骨盤が左にスライドするって。

坂詰 そうですね。アドレスのときに、左のくるぶしから垂直に線を引いてスウィングをコマ送りすると、切り返しからダウンスウィングにかけて、左脚は線の外に出てきます。これがトランジションの動きで、欧米の男子選手などは、ほぼ全員がその動きでスウィングしています。
 
なかでも、トミー・フリートウッドなんかはえぐいですよ。頭がトップの位置から動かないどころか、右に動きながら、左脚が線よりもかなり外に出ていきますからね。

O編 それだけ下半身と体重移動を使ってるってことかな。

坂詰 そういうことです。近年、地面反力について言われることが多いんですが、このトランジションができて、はじめて地面反力をフルに使えるんです。切り返しで右足を踏み、地面を押した反動で骨盤が左にスライドして、そこから両脚を伸ばしていくことで、反力を回旋のスピードに変換できるんですよ。

O編 トランジションは下半身を使い切る動きだって言ってたのは、そういうことなんだね。

坂詰 ハンドファーストなんかも、トランジションと直結してるんです。ハンドファーストって、トランジションが行われた結果、自然に生じる動きなんですよ。手だけを前に出したインパクトや、頭が(トップの位置よりも)左に突っ込んで手が前に出たインパクトは、本当のハンドファーストとは言えないんです。

O編 体重移動が行われた結果、手元が先行することが大切なんだね。

坂詰 ただ、左に体重移動しようとか、腰を左にスライドさせようとすると、頭も左に動いちゃう人が多いんですよねぇ。あくまで頭をトップの位置に置いたまま、骨盤を左にスライドさせることが大切なんですよ。

O編 でも、トランジションしないプロもいるんでしょ?

坂詰 ええ。構えたその場で回転するようなスウィングだと、骨盤がスライドしませんからね。

O編 それもアリなんだよね?

坂詰 アリです。ただ、ボクが教えるなら、トランジションにはこだわりたいんですよねぇ。

O編 それはどうして?

坂詰 体を使い切っている証拠だからです。構えたその場で回転する方向性重視のスウィングを否定するわけじゃないんですが、パワーゴルフが全盛の現代において、自分の体を使い切って飛距離を引き出すことは、とても大切だと思うんです。

O編 みんな飛ぶようになったもんね。男子は20年前に比べて40~50Yは伸びたんじゃない?

坂詰 でしょ。米ツアーを見てください。クラブの重さでポーンと打ってる選手なんて誰もいませんよね? みんな体を鍛えて、体を使い切って、マン振りしてる。そうじゃないと勝負にならないんですよ。

トップ選手はトレーニングとスウィングを結びつけている

O編 タイガー・ウッズの出現でハードなトレーニングが当たり前になったもんなぁ。

坂詰 それが2つめの理由です。

O編 それって、どれ?

坂詰 トレーニングですよ。現代のゴルフのトレーニングって、さまざまな研究によって明らかになった、効率のよい、合理的なスウィングを実現するためにあるんです。

つまりですね、いま、プロがやっているトレーニングは、トランジションを実行するためにあるって言っても過言じゃないんです。それなのに、トランジションしないでスウィングしていたら、どうなると思います? いまやっているトレーニングがムダになっちゃうんですよ。

O編 お~。なるほど……。

坂詰 だから、現代のトレーニングをやっているプロは、トランジジョンの動きを目指すべきなんです。よく、トレーニングしても飛距離が伸びないなんて話を聞くでしょ。それって、トレーニングとスウィングが結びついていないんですよ。そんなの、もったいないじゃないですか。

O編 アマチュアの場合は、どう考えたらいいの?

坂詰 アマチュアの場合は、なかなかプロのようなトレーニングはできないので、トランジションにこだわらなくてもいいと思うし、クラブの重さを生かしたスウィングでいいと思うんです。
ただ、最近は、アマチュアでもパーソナルトレーナーをつけてストイックにやっている方もいらっしゃいますからね。そういう人は、トランジションを目指してもいいと思います。だって、そのトレーニングは、そのためにあるんですからね。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月25日号「ひょっこり わきゅう。第25回」より

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