「迷って研修生やってた」時松と「落ちるつもりでQTを受けなかった」川村
川村 源ちゃん(時松プロのあだ名)、プロになる前、謎の浪人生をしていたよね?
時松 浪人生じゃなく、研修生ね。ゴルフ場の研修生をしながら、大学へ進学しようか、直接プロを目指そうか迷っていたんだよね。そうしたら、(川村)昌弘と浅地(洋佑)がQTを全部クリアして、ツアーに出て、シード権まで獲っちゃった。僕は、何やってんだろうと。
川村 高校3年生の頃、源ちゃん、なぜか自信喪失していた。
時松 僕はプロになるなら2番アイアンとか3番アイアンとかをビシッと打てないとという勝手なイメージを持っていたんだよね。ところが、ロングアイアンでグリーンに乗せたと思っても、それが止まらずに全部グリーンの外にこぼれていた。ああ、プロでは僕の球筋ではグリーンに止めることができないんだなって。
川村 自信喪失している源ちゃんに、声をかけて励ましたいなと思っても、予選落ちして試合会場に現れないから、声のかけようもない(笑)。高校最後の日本ジュニア、誰が優勝したか知らないでしょ。僕! 霞ヶ関(CC)で最終日が雨で中止になった後味の悪いアマチュア最後の試合だった。
時松 優勝しているからいいじゃん。僕は霞ヶ関に行けてさえいないんだから(笑)。大学かプロか、迷いはなかった?
川村 僕はゴルフが大好きで高校までやってきて、悩んでいたアメリカの大学進学を選ぶとゴルフができなくなる時期もあるから、それが嫌でプロを選択した。QTを受けるとき、もし落ちたらうちに来ればと言ってくださる大学もあったけど、負けず嫌いだから、「落ちるつもりでは受けないし、万が一落ちても大学へは絶対に行きません」って。落ちるのを想定して受けたくはなかった。
時松 カッコええやん。迷って研修生やってた僕との差(笑)。
「スロープレーを叱ってくれた先輩に、一緒に謝りにいったよね」(川村)
川村 1年遅れて源ちゃんがプロの世界へ来て、その頃、スロープレーを先輩プロに叱られて、源ちゃんビビってた。
時松 僕がプロの会場へ行くと、あの先輩に挨拶してきたほうがいいとか、親切に先輩を紹介してくれたりとか、昌弘にはお世話になったね。
川村 そのスロープレーを叱ってくれた先輩に、一緒に謝りにいったよね。それ以来、源ちゃんのプレーが早くなりすぎて、ティーイングエリアに着いたらすぐに打つから「オイ!」ってまた怒られたり(笑)。
時松 パターもマークする前に打ってしまって、「オイ! もし球に当たったらペナルティだぞ」って、またグリーンでも叱られた(笑)。
川村 でもよく考えたら、18、19歳でプロの試合へ出て、全員が年上のオジサンばかりのなかで、ビビるのが当然だよね。僕も挨拶をし忘れた、とかそんなことにビクビクしていた。だけどその感覚って、日本人の若者ならでは。今、海外で試合をしていて、挨拶し忘れたなんて、1ミリも気にしない。逆に、なんですれ違うだけで挨拶しなきゃならないのって。
時松 ああ、昌弘って、挨拶が嫌になって海外へ出て行くようになったのね?
川村 そんなワケないやろ(笑)。それじゃ僕、挨拶もできない小心者みたいやん!
時松 それは冗談として、20歳になったばかりで、史上3番目の若さでツアー初優勝。いや~、同い年として、誇らしかったし、全然手の届かないようなところへ行かれちゃったなと。
「デビュー当時の昌弘ぐらい厚かましくていい」(時松)
川村 僕は、ゴルフが大好きだという気持ちを、すごく大切に思うんだよね。プロの試合に出始めたら、毎週試合ができることが楽しくてしょうがなかった。しかも、2戦目のつるやオープンで3位タイとか、初のメジャーのツアー選手権で5位タイとか、意外と通用するなと生意気にも思ったりして。
時松 すごいね、その楽しめる精神力と自信が。
川村 実は1年目に勝てると思って、東海クラシックで最終日最終組で回ったのに勝てなくて。その試合後、悔しくて誰とも口を利かずに帰った。
時松 でも、2年目のパナソニックオープンで初優勝!
川村 初優勝できたときの記者会見で、前年の悔しさがあったから、「やっと勝てました」と言っちゃいそうになって、慌てて「やっと」なんて言うのをやめたんだ。2年目なのに「やっと」なんて言っちゃったら、反感買うなと思って(笑)。
時松 ちゃんとそういう配慮はできるんだ。やっぱ日本人の若者やん!
川村 今の若い選手ってすごく上手で、世界で通用するレベルにすでに達しているのにいい子ばかりで。でも、「僕なんかまだまだです」という謙虚さが、世界で活躍する邪魔をしてしまう、と思うこともある。
時松 デビュー当時の昌弘ぐらい厚かましくていいと。
川村 うん。それはそれで、日本では反感買うかな(笑)。
TEXT/Yuzuru Hirayama
※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月5日号「時松プロ ご指名プロと技トーク わかったなんて言えません」より