当コースの開場は百年前の1923年で、今回の西コースは井上誠一の設計により、1961年にオープン、2011年には過去14回の全米オープンゴルフ選手権開催コースの設計に携わったリース・ジョーンズが改造設計、新たな装いで今回の日本オープンを迎えている。
2011年に行われた主な改造点は、2グリーンから1グリーンへの移行。それにともないグリーンには大きなアンジュレーションが施された。そして、コース全長が伸びた。1996年の前回大会はコース全長が7017ヤードのパー71なのに対し、今大会では300ヤード近く伸びてコース全長が7315ヤードのパー70と大幅に変更された。
そこで1996年に行われた前回大会を簡単に振り返ってみよう。優勝したのは日本ではまったく無名の選手であったピーター・テラバイネン。トータル2アンダーの優勝で、テラバイネン1人だけアンダーパーだった。日本オープンならではのタフなコースセッティングのうえ、日本屈指の難コースと知られる茨木CCということもあり、ロースコアでの優勝は意外なことではなかった。
余談になるが、2000年以降、ギアの革新的な進化の波が訪れ、飛距離が劇的に伸びたことにより優勝スコアにも変化が表れている。コース側も全長を伸ばして対応しているが、日本オープン過去10年の優勝スコアを調べてみると、2019年に古賀GC開催でのC・キムが1オーバーで優勝した以外、すべて5アンダー以上で2桁アンダーも6回。
かつての日本オープンでは考えられない爆発的なスコアが連発するようになったが、JGAではさまざまな取り組みを行いセッティングしている。例えば、ラフについて注目してみると、1996年の前回大会に比べると意外なことがわかった。
まずはラフの長さだ。実は、27年前の前回大会のほうがラフははるかに長かったということを教えてくれたのは茨木CC所属の木本邦彦プロ。
「当時はティーからグリーンまで、ラフを本当に伸ばしていて深いところは200ミリ近くあったと思う。あるプロが、『鍬を持ってこないと出ない』と苦笑いしながら言っていたほど。なかでも印象的だったのが最終日の18番でフランキー・ミノザ。(深いラフの)残り50ヤードからド引っかけして普通では考えられないような池に入れて優勝できなかったんだよ」
「でも、逆に長いぶんラフが寝ているところもあったから、ボールが芝の上に乗って打ちやすい地点もあったね」(木本プロ)
では、今回はどうなっているのか調べたところ、ティーから250ヤード地点までが50ミリ、そこからグリーンに向かって120ミリ、グリーン周りは150ミリに刈高を設定されていた。前回よりも明らかにラフ丈は短い。
普通に考えたら、前回大会のほうが深くて難しいと思うところだが、この意図はプロの技術を引き出すために行われているセッティングです、とはJGA関係者。
「プロは適応能力が非常に優れているため、ラフの長さが同じだとすぐに対応できてしまい、ただ深いだけではプロの技術を引き出すセッティングにはなりません。さまざまなラフの深さがあるからこそ、パワーだけでなく技術力がなければ攻略できないように工夫をしています」
次に、ラフの状態について調べてみると非常に興味深いことが見えてきた。前回大会は、特に行っていなかった芝の向きについて、今大会ではフェアウェイは芝を立たせるようにして、グリーン周りはなるべく逆目になるように設定しているという。「なるべく順目にならないように、逆目もしくは立たせてもらうようにコンディションを整えてもらっています」(同JGA関係者)
実際、公式会見では稲森佑貴が、「僕のドライバーの距離だと、深いラフの手前のやや短めのラフでまだいいですが、グリーン周りはほとんど逆目なので大変です」と語っていた。
当時のような、ただ深い猛烈なラフで難易度を上げるのではなく、刈高を変え、芝の向きを変えることでプロの技術力を引き出すことが狙いだ。同時に、それが難易度を上げることにもなる。
ディフェンディングチャンピオンの蟬川泰果は、「関西特有の太い高麗芝の深いラフには注意しています」と、プロを悩ませる一種のハザードとなる。今大会のコースレイティングは77.6と聞いたことのないような数値で、石川遼も「予想優勝スコアは一桁じゃないかな」とコメントした。
ラフを避け、ラフと戦う姿ではなく、臨機応変にライに対応する技術を見せる、その戦いに注目して、じっくりゴルフ中継を見てはいかがだろう。(PHOTO/Tadashi Anezaki)