大賞はキャロウェイ「パラダイム♦♦♦」
2023年のPGAツアー開幕戦から3連勝、ジョン・ラームのマスターズ制覇と日米男女ツアー合わせて20勝を挙げたキャロウェイ「パラダイム♦♦♦」。その強さの秘密は速いボールスピードが生み出す飛距離と、ミスに対する許容性の両方を併せ持っていたことだった。
キャロウェイだけのカーボンテクノロジー
「『パラダイム』シリーズの最大の特徴は『360度カーボンシャーシ』にあります。自動車のフレームのことをシャーシと呼びますが、これもボディのシャーシということで全部カーボンでできているんです」とは日本のキャロウェイで長年クラブ開発に携わってきた茂貫太郎氏。
「理論的にはヘッドの前のほうに重量を置いて重心を浅くすればボールスピードが上がり、後ろのほうに重量を置くことで慣性モーメントが大きくなってやさしさを生みます。極端な話ですが、真ん中のボディの部分は空気でもいい。ただ空気では作れないので比重の軽いカーボンが選ばれました。そのカーボンも2種類のカーボンを使っています。ひとつ目がクラウン部のトライアクシャルカーボン。これはカーボン繊維を編み込んだカーボンシートで、薄くて均一なクラウンが作れます。もうひとつがソール側に使われているフォージドカーボン。切り刻まれたカーボンファイバーをランダムに配置して、型に入れて鍛造で成型した物。編み込んでいないから3次元の立体的なデザインも可能で、長年、カーボンを研究してきたキャロウェイしか作れない素材なんです」(茂貫氏)
キャロウェイは2002年にフェースにもカーボンを使ったフルカーボン製の『ビッグバーサC4』を皮切りに、『E・R・C+フュージョン』、『E・R・Cホット』 、 『ビッグバーサFT-3』など、しばらくカーボンを優先的に使っていた。だが当時のカーボンは音とフィーリングがゴルファーの感覚とマッチしておらず日本では“異端児”的な扱いを受けてしまう。2011年にはランボルギーニ社と共同開発したフォージドカーボンをボディに採用した『レイザーホーク』を発売するも、その後はチタンボディにカーボンクラウンが主流となっていた。
本来なら「エピック」を名乗るモデルだった
「キャロウェイには『DSPD』という思想があります。簡単に言うと『明らかに優れていて、その違いを楽しむことができる』、つまり、前作より明らかに優れていないと出さない、ということなのですが、正直、昨年の『ローグST』で行くところまで行ったと思っていたんです。ところが『パラダイム』が出てきてビックリ。しかも、過去の素材とテクノロジーをブラッシュアップして最新のものと融合させたんです。
2017年の『GBBエピック』からエピックには最新の技術を詰め込み、ボールスピード、つまり飛距離を重視。翌年のローグやマーベリックは前年のエピックをベースにやさしくしていくという、2年をセットに開発が進んできました。でもボールスピードでもやさしさでも、どちらも100点を取りたい。それを実現させたのが『360度カーボンシャーシ』でした。そこにAIが設計したフェースとジェイルブレイクを組み合わせたことで、飛距離とやさしさの両方で100点が取れるようになったんです。さらにAIの力で音も分析し、複合ヘッドなのに金属的な音が出せるようになりました。そこで『ローグST』の翌年なので本来ならエピックの名が使われる年だったのですが、パラダイムシフトが起きたということで『パラダイム』という名前になりました」(茂貫氏)
AIとチタンフェースの進化はまだまだ続く
ヘッドの真ん中がすべてカーボンになったため、フェース部はAIフラッシュフェースと新デザインのジェイルブレイクテクノロジーが一体となったチタン製のフェースカップ構造に。このフェース面でほぼすべてが完結できるが、後方にウェイトを置くことで慣性モーメントが大きくなりヘッドの挙動が安定し、インパクトでフェースが正しい方向を向く。これらを組み立てるのも難しく、専用の機械を開発してフェースやボディなどのパーツすべてを一度に組み立てることで、均等に負荷がかかりドライバーとして耐久性のあるものになるという。素材や構造だけでなく生産技術も見直して、すべてを進化させたから、この構造が現実的にできるのだ。果たしてこの先は?
「AIの進化は、まだまだ続くでしょう。そしてチタンフェースにもまだまだ可能性が残されています。たとえばたわみのコントロール。『パラダイム』では着弾地点のバラつきも補正するように計算させましたが、AIはたわみをコントロールして設計しています。近い将来、フェースのどこに当たっても飛距離が変わらないようになるかもしれません。そしていつかはフィッティングをして、その人のスウィングの特性をインプットすると、その人だけのAIフェースが出てくるような時代になるのかもしれません」 (茂貫氏)
※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月19日号より
PHOTO/Takanori Miki、Tomoya Nomura、Akira Kato