2022年4月に、筑波大学社会人大学院のリハビリテーション科学学位を専攻する“女子大生”になった週刊ゴルフダイジェスト編集部Y。最近盛んに言われる「共生社会」という言葉。「バリアフリー新法」を学び「ゴルフ」も絡めながら考えてみた。

「リハビリテーション」を社会学的観点から見ていくことは、とても大切である。近年、日本でも障害者に関する法律が施行・改正されているが、世界の動きに追随して動くのが、いかにも日本らしい。それはさておき「地域リハビリテーション」の講義のなかで「バリアフリー新法」に関する話があった。

この法律は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」として、2006年に施行された。「高齢者、身体障害者が円滑に利用できる特定建築物の建築に関する法律(ハートビル法、1994年)」と「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法、2000年)」を統合・拡充したもの。法律の名前は正直言ってややこしい。しかし、そこに内容と思惑が潜んでいるが……建築物移動等円滑化基準への努力義務、適合義務を課すことや「ユニバーサルデザイン」の考え方を踏まえた規定が盛り込まれ、2018年には「共生社会」の実現と理念規定を導入、2020年には再度改正され(2021年施行)今に至る。

「東京オリンピック・パラリンピック2020」が2021年に開催されて2年が経つ。オリンピック・パラリンピックは社会環境が整備される絶好の機会だ。前回、1964年に東京の街は激変した。そして今回も法律のもと、駅や鉄道など公共機関を中心に確かに改善された。しかし、人々の意識改革までには至ったのか、これをきっかけに多方面の動きにつなげていくことができたのか……。

さて、バリアフリー新法では、建築物移動等円滑化基準が、「特定特別建築物」では適合義務が求められ、「特定建築物」では努力義務にとどまる。ただし、地方公共団体により、適合義務対象を拡大できる。

ゴルフ場、ゴルフ練習場は「バリアフリー新法」における「特別特定建築物」になるのか。たとえば、さいたま市の「バリアフリー法第14条(基準適合義務)さいたま市取り扱いQ&A集/令和5年3月22日改訂版」には、運動施設で具体的にどのような施設が該当するかについて、ゴルフ練習場が入っており「多数の者が利用する会員制の施設も含む」とある。建物の規模などにもよるだろうが、身近な自治体に関して調べてみるのもいいかもしれない。

画像: ひざの故障が慢性化、シニア競技にカートに乗ってプレーするジョン・デーリー。人気者も「アダプティブ」だ(19年全米プロ。PHOTO/Tadashi Anezaki)

ひざの故障が慢性化、シニア競技にカートに乗ってプレーするジョン・デーリー。人気者も「アダプティブ」だ(19年全米プロ。PHOTO/Tadashi Anezaki)

ゴルフは老若男女一緒にできる生涯スポーツと言われる。ゴルフ人口510万人(コースへの参加人口推計・レジャー白書2023)のうち、60歳以上は全体の52.2%である。コースのカート乗り入れはもちろん、コース・練習場内のお手洗い、ハウス内の配慮(スロープやエレベーターの設置など)を行う施設がもっとでてきてもいい。ゴルフ界が自ら動くこと。ユニバーサルデザインを個性とし、“売り”につなげるコースや練習場が増えること。これは障害者のためだけではなく、高齢者のためにもなる。

ゴルフ競技は、2016年のリオ五輪から正式種目となったが、障害者ゴルフに関しては、パラリンピック競技に入るよう動いているものの、実現には至っていない。これには欧州とアメリカの競技団体の足並みのそろわなさが大きいのだが、カテゴリー分けの難しさに加え、アジアでの、また女性の競技人口の少なさやゴルフ場など競技環境の整備も関係している。オリンピック・パラリンピックはそれぞれの競技種目の普及の絶好の機会ではあるが、各競技の実態と課題が浮き彫りにもなる。その課題を解決してこそ、普及に至るはずだ。

2023年夏、「Adaptive Open(アダプティブオープン)」(USGA主催)というアメリカの障害者ゴルフの世界大会を訪れた。‟名門”と呼ばれるコース「パインハースト」で開催。パインハーストは現在「№10」を建設中の巨大なゴルフ場で、全米オープンが度々開催されるのは「№2」。今回の大会は「№6」で開催されたが、そのバリアフリー化と大会のホスピタリティの高さには感心した。

画像: USGA主催、アダプティブオープンの会場。芝の上に出場者の「カート置き場」を設置。練習打席でもカートを横付けできる

USGA主催、アダプティブオープンの会場。芝の上に出場者の「カート置き場」を設置。練習打席でもカートを横付けできる

Adaptive(適応)とは、最近アメリカで障害者を表す言葉として使われている。障害者は「できない」人ではなく、適切な環境があれば能力を十分発揮できる。自分を理解し、道具などを整え、挑戦する達人…アダプティブは本人も周りにも必要だ。アダプティブの精神が、バリアフリー化や共生社会の実現につながるのだと思う。

米シニアツアーでは、「障害を持つアメリカ人法(AⅮA、1990年)」にのっとり、障害を持つ(健康上の理由で認められた)プロゴルファーは「ゴルフ場にカート乗り入れ可」である。今の日本では、障害者ゴルファーを受け入れてくれるコースは少なく、本人や団体もそれを訴えるための知識と術を持たない。法を“使う”ための学びは必要だ。

「バリアフリー新法」のなかには、様々な段階での住民・当事者参加や「スパイラルアップ(継続的・段階的な改善)」を国や地方公共団体の責務とし、「心のバリアフリー化」を国や地方公共団体、国民の責務とする、とある。

授業で「バリアフリーが進んだから障害者が外に出られるようになったんじゃない。障害者が外に出たからバリアフリーが進んだんだ」(DPI日本会議副議長、尾上浩二さん)という言葉が紹介された。

「法律」を動かすのは結局「人」。人々の意識改革が、障害者、健常者ともに、また老若男女問わず広がってこそ、世の中は動く。「ユニバーサルデザイン」にしても専門家だけではなく、各分野の人々の「目線」を使い、目的や意義を伝えていく。仲間内だけで話をしていても何も変わらない。皆が皆を巻き込んでいけば「心のバリアフリー化」も広がっていく。

リハビリテーションの勉強をしていて、「インクルーシブ社会」「共生社会」などの言葉がよく出てくるが、その理想的な言葉とは裏腹の、悲しい現実や根深い差別にぶちあたることも多い。これらの言葉を研究の世界だけに埋没させては「共生社会」には至らない。

画像: 関西のとある練習場。車椅子対応のエレベーターはあまり見かけないので撮影。日本中に広がるといいですね

関西のとある練習場。車椅子対応のエレベーターはあまり見かけないので撮影。日本中に広がるといいですね

私は、「ゴルフ」がインクルーシブ社会、共生社会をつくる1つのツールになると考えている。自分自身が何をすべきか自分に問いかけ、ゴルフ界の「目線」となり、今後もスポーツ界、そして企業や社会にも問いかけていきたい。

2024年、心のバリアフリー化で、ゴルフに取り組んでみませんか?

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