昨年4月に、筑波大学社会人大学院の”女子大生”になった週刊ゴルフダイジェスト編集部Y。前回の「老年学」に続き「医学リハビリテーション」の授業を学び、考えた、高齢者への健康・認知症対策への「ゴルフの効用」について。

「サルコペニア」という言葉をご存知だろうか? 一般の方にはあまり馴染みがないと思われるが、これは今後の高齢者対策に大事なキーワード。

加齢にともない全身の筋肉量と筋力が自然に低下し、運動機能も低下した状態のこと。これは、転倒、骨折のみならず要介護状態、生命の存続にもつながる。しかも骨粗鬆症と併存率が高く、認知症とも介在する要因が類似しているという。メカニズムは様々な加齢変化が要因であるが、近年、これが解明されつつあり、単なる老化現象ととらえず、そのメカニズムに対抗していくことが必要であり、それには運動と栄養が大事だとデータが示す。

ここで「ゴルフ」だ。健康における歩行の効果が言われて久しいが、そもそもゴルフに歩行は必須であるし、それ以外にも総合的トレーニング(体幹、下肢、腕、全身の筋力維持+体力維持)を含むスポーツである。細かく考えると、ティーを刺す、ボールを拾う、グリーン上でラインを読む、カートの乗り降りなどの「立ち上がりトレーニング」と同等の動きも入っている。何よりクラブを振る行為自体で、背筋、腹筋、お尻・太ももなどの様々な筋肉を使い、体幹、バランス感覚など「姿勢の維持」が必要な動きが入るし、パッティングなどは繊細なタッチ(指先の筋肉)も使う。また、素振りだけでも毎日取り入れるとよい運動になり、何より上達にもつながる。そして大事なのは、何かを続けられる面白さや仲間。ゴルフにはその両方が存在することだ。

「栄養」について。以前「元気な80代対談」で取材したプロゴルファーの陳清波さんとプロスキーヤーの三浦雄一郎さん(当時80代半ば)は、お二人とも朝食でほぼ毎日ステーキなどの肉を食べると言っていた。そのほか、高齢現役ゴルファーである「エージシューター(自分の年齢より少ないスコアでラウンドする)」たちも、多くが食事に「肉」や「牛乳・ヨーグルト」を取り入れて、3食しっかり摂る規則正しい生活をしており感心することが多かった。高齢者は若年者より積極的にタンパク質を摂取することが必要。そこにモチベーションがあればなおよい。「やりたいこと・目標」につながる食事だ。

また認知症の進展を防ぐために早い段階で介入できるものとしても「運動」の効果は研究されており、あらゆる可能性が示されていると聞くと希望が湧く。認知機能には、筋力だけでなく二重課題処理能力の低下も関係するそうだ。そのため、デュアルタスク(二重課題)を加えた運動を行うといいとのこと。これもゴルフにはあるのではないか。

高齢者には特に、種目に関わらず継続運動を指導しサポートすることが肝心だが、このために「楽しい」「上手くなりたい」の心理的効果は使うべきだと思う。たとえば94歳のとき、転んだ老人を助けて腸骨を骨折したが、「ゴルフがしたい」ためにリハビリに尽力した‟エージシューター”の星、植杉乾蔵さん。実際、3カ月でゴルフを再開、ホールインワンを達成したことが、1つの実証ではないか。

画像: 私の事例研究でも紹介させていただいた、エージシューター界の巨人、植杉乾蔵さん。昨年12月、99歳の誕生日にお亡くなりになりました。生涯エージシュート数は1472回。「年を取るのはありがたい。いつでもエージシュートできる」。ゴルフとともにある人生を体現

私の事例研究でも紹介させていただいた、エージシューター界の巨人、植杉乾蔵さん。昨年12月、99歳の誕生日にお亡くなりになりました。生涯エージシュート数は1472回。「年を取るのはありがたい。いつでもエージシュートできる」。ゴルフとともにある人生を体現

ゴルフを中心としたライフスタイルが高齢者の健康維持にもつながる……私自身が、今から始めてみようか。まず起床後の素振りを日課にする。すると早起きになり規則正しい生活になる。素振りはゴルフの技術上達にもつながるのでモチベーションができ、それは継続を生む。今は月2回のラウンドでOKとし、定年後は週1回のゴルフを目標にする。一番のネックとなるものはお金か……ゴルフ預金をし、安い会員権を買うなどして、仲間になり得る人を今から増やすのもいいかもしれない……。
実際「ゴルフ」というスポーツ自体の効果がどのようにあるのか、という研究はまだ少ない。いや、これからもっと増えていくことを信じたい。そのために、微力ながら、関係するいろいろな研究を紹介していければと思う。

この後、「事例研究発表会」という、自分の身近な事象や研究を事例として分析し発表する授業があった。ここで私は、老年学や医学リハビリテーションで学んだことを元に、週刊ゴルフダイジェストに掲載した「エージシューター」の連載企画で取材した65人(2013年5月7・14日号~2014年10月8日号)の可能な限りのデータを集めてみた。発表テーマは「エージシューターにみる生活習慣の整え方」だ。

属性に関して。平均年齢は「79.3歳」、ゴルフを始めた平均年齢は「35.7歳」、エージシュート達成平均年齢は「73.6歳」、平均飛距離は「206.6Y」だった(すべて単純集計。n≃65、以下同)。

「エージシュートという目標のため、体を鍛えるようになったか」の質問には、42の人が「やている」と答えた。その内訳は、ラウンド以外に「ウォーキング・散歩/41%、ストレッチなど(自宅)/37%、ジム/11%、素振り/9%、自転車/2%」といったもの。

画像: 前出の上杉乾蔵さんはゴルフ開始が34歳。仕事を独立した55歳で本格的に取り組み、初エージシュートは71歳。元看護士・千枝子夫人の食事に支えられ、毎日30品目、牛乳を毎朝、夕食、就寝前に飲んだ(3日で4パック)

前出の上杉乾蔵さんはゴルフ開始が34歳。仕事を独立した55歳で本格的に取り組み、初エージシュートは71歳。元看護士・千枝子夫人の食事に支えられ、毎日30品目、牛乳を毎朝、夕食、就寝前に飲んだ(3日で4パック)

生活習慣に関しては、平均睡眠時間が「7.85時間」。3食きちんと摂る人が「62人」、毎日食べているものには、「納豆/15人、牛乳/15人、卵/12人、ヨーグルト/13人、肉/7人……(複数回答アリ)」などタンパク質が含まれるものが多くあがった。先行研究でも「運動+タンパク質は運動単独と比較して骨格筋量増加効果を認める」(Liao CD ほか2017)と言及されている。

画像: 1472回エージシュートを達成した、植杉乾蔵さんの夕食例

1472回エージシュートを達成した、植杉乾蔵さんの夕食例

これらから導かれること。「エージシュート」という目標があると「目標達成には、健康でないと!上手くなりたい!」と必然的によい生活習慣に向かう。すると、規則正しい生活、睡眠たっぷり、食事に気を付けるようになる、より体を鍛えるようになるといった、よい生活習慣が作られていくのではないか。

ちなみに……各人、発表の持ち時間は「6分」である。5分で呼び鈴が鳴り、6分でもう一度呼び鈴が鳴る。「チンチ~ン」という美しい響きにどぎまぎして、ここ10年で一番の緊張感を味わい、10秒オーバーするという“遅延プレー”を犯した自分を反省していることを付け加えておこう。

※参考資料/Liao CD, Tsauo JY, Wu YT, Cheng CP, Chen HC, Huang YC, Chen HC, Liou TH. Effects of protein supplementation combined with resistance exercise on body composition and physical function in older adults: a systematic review and meta-analysis. Am J ClinNutr. 2017 Oct;106(4):1078-1091. doi: 10.3945/ajcn.116.143594. Epub 2017 Aug 16.

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