なぜ『ツアーAD PT』、『ツアーAD DI』はなくならないのか?
GD ツアーAD 『PT』と『DI』の話を聞きたいんですが、もうこの2本のシャフトは永久不滅の定番商品という感じじゃないですか。
長谷部 もうこれ以上のシャフトは出てこないんじゃないかっていうぐらい定番化していて、改良をしても、やっぱり違うってなっているんじゃないですか。バリエーションもたくさん増えているけど、結局PTを超えられないとか、DIを超えられないというのはあるでしょうね。ちなみに私はDI派で10年以上になりますね。
GD なんで?
長谷部 『PT』は中調子のベストバランス、『DI』は若干手元が軟らかいので中手元調子のベストバランス。この2本は、超えようと思っても超えられない。スチールシャフトの『ダイナミックゴールド』のようなものになっているんだと思います。
GD 完成の領域に達してしまったと。
長谷部 だからそこはもう誰もいじれないし、メーカーですらもう触れられないぐらい市民権を得ているんでしょうね。『PT』と『DI』を支持している人は多いし、使用者も多い。他を試すけど、なんだかんだ言っても、『PT』、『DI』に戻るベテランゴルファーは多いと思います。
松山英樹も使用するツアーAD 『DI』は2009年の発売。上が旧デザイン、下が現行のデザイン。中手元調子のベストバランスで永久不滅の名器と評されている
GD 『PT』は2006年、『DI』は2009年の発売です。『DI』は15年、『PT』は18年も前のシャフトですが、ちょうど今の大型ヘッドに対しては、あれぐらいの緩さがいいんだよっていう話を聞いたことあります。今のシャフトのほうが締まっている?
長谷部 今のシャフトのほうがトルクは締まっているでしょうね。当時はヘッドが460ccにいくかいかないかでせめぎ合っていた頃のトルク値だと思うんですよね。「3.4」とか「3.5」でしょう。だから「それほどハードにし過ぎないでもいいよね」って言い始めた頃の60グラムぐらいのシャフトなので、ほどよい優しさが残っていて、未だに受け入れられているんじゃないですか。だから、シャープな振り感とか、ちょっとでも飛びを意識すると、素材を硬くしなきゃいけないとなったときに、振り感に影響があって、何か違う感じになってしまうのでしょう。
GD 長谷部さんがかかわった当時のドライバーにも『PT』が入っていたのを覚えています。『PT』をメーカーのカスタムに採用しよう思った理由は? まだあの頃は、カスタムよりも純正シャフト優位の状況で、カスタムを推すのは珍しかったと思うのですが。
長谷部 ツアーに出はじめ、プロが使い出したというのはありますけど、振りやすい中調子のシャフトという評価がありました。自分が打ったときも「これはめちゃくちゃ打ちやすいな」と思ったので、これなら一般のアマチュアも打ちやすさを体感できるなと思い採用しました。
GD グラファイトデザイン超定番がPT、DIだとしたら、他メーカーにも超定番みたいなシャフトってありますか?
長谷部 フジクラで言ったら、『初代スピーダー』。
GD 「青のスピーダー」がいいっていう人多いですよね。
初期のスピーダー3モデル。青の初代スピーダーはベテランゴルファーに今でも人気のシャフト
長谷部 改良を重ねているものの、最初の頃の『757』、『661』、『569』ってツアーでも評判が良かった。そのまま受け入れられているところがあるので、弾くシャフト、走るシャフトでは人気がありますよね。
GD 「フジクラ」にしても、『ツアーAD』にしても、昔のシャフトが好きというという声があるのも確か。
長谷部 ちょっと変えなきゃいけないっていうのが改良版の宿命だとすると、定番がいいんだよって、メーカーが言い続けることの難しさがあります。新製品を出しても、なんとなく市場ニーズとズレてしまうのが原因で評価されない結果になりますよね。
GD 女子プロに人気のスピーダーで言ったら、次の世代の『NXシリーズ』になって、『エボリューションシリーズ』のループから抜け出そうとしている?
長谷部 本質的な中身は変わってないかもしれないですけど、ちょっとずつ最新の技術と素材を入れながら、静的な部分と動的な部分で似たような性能を目指していんじゃないですかね。
GD フジクラで言ったら『ベンタス』の人気が上がっています。PGAツアーで人気に火がついて、日本にやってくるというのが最近の流れで、その流れを作ったのは三菱の『テンセイ』が最初だったように思います。
長谷部 この流れは、日本で求められるシャフトの細やかな弾き、しなり、振り感みたいな評価がたぶんアメリカ人にはなくて、棒みたいなシャフトを力任せに振る人たちが多いなかで、凡庸でもいいから、強度の強いもの、暴れないものが求められるアメリカで売れているから、逆に日本で紹介したら、日本でも評価された。ヘッドもアメリカのヘッドだったっていうこともあるかもしれません。
PGAツアーで人気に火が付き、日本に逆輸入され傾向が見られる。この人気の傾向は外ブラヘッドとの相性も考えられる。画像は『ベンタス』
GD 確かに繊細さでいったら違うような気がします。でも、今の外ブラのヘッドに対しては、その感覚がいいんだよ、となっている可能性は……。
長谷部 十分考えられます。本来は振り感だと、シャープな振り心地、気持ちよい振りやすさ、みたいなのを求めていた人たちも、だいぶ細かなフィーリングに対する要求が低くなってきていて、曲がんなきゃいいとか、軽く振り抜ければいいんだみたいな感じになってくる。アメリカ的な発想になって、シャフト自体が動かなくてもいい、そのほうが安定して自分のスウィングの結果がわかりやすいんだってなると、結果的に大怪我しなくなるので、高評価になりますよね。
GD スウィング自体も変わってきている?
長谷部 だいぶ変わってきているから、好まれるシャフトも変わってきます。言い方は悪いですけど大味になってきているのかもしれません。
GD 『アッタス』はどうでしょう。『V2』は女子プロに人気のようです。原英莉花が使っていて、金谷拓実は、長いこと『ジ・アッタス』を使っています。アッタスもたくさん種類がありますが、この2本が定番的存在なのかと思います。どちらも、PTに似た感じのある中調子の打ちやすいシャフトという印象があります。
上が原英莉花が日本女子オープン優勝時に使用した『ジ・アッタスV2』、下が金谷拓実が使用する『ジ・アッタス』。『アッタス』の定番モデルになるかもしれない
長谷部 黄色い初代アッタスもそう。「中調子のど真ん中」というシャフトで打ちやすかったですね。
GD 初代アッタスと言えば、丸山茂樹が広めた感じがありますが、確かに評価が高かった。そこから改良を重ねてきたわけですが、10代目の『ジ・アッタス』でまた評価され、『V2』は『ジ・アッタス』をベースに進化させたと言われています。
長谷部 『アッタス』は毎年新製品を出して、常に新しいチャンレンジをしているメーカーなのかなというイメージがあるので、定番的なものは見づらいのですが、女子プロでは『V2』が人気っていうのは確かなので、今後定番化されていくと思います。女子プロの影響がそのように出てくるとすると、カスタムシャフトがより軽量になって、女子プロが飛ばせる軽量シャフトという機軸で、新しい定番が生まれるような気がします。
取材協力/GDOゴルフガレージ
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