スコアメイクの要であるショートゲーム。大手メーカーのウェッジを使用するプロが多いなか、職人が削り出すカスタムウェッジを愛用する選手もいる。彼らがウェッジにこだわる理由はやっぱり“やさしい”から。2024年6月25日号の「週刊ゴルフダイジェスト」では、プロから厚い信頼を寄せられる都丸和寛氏に話を聞いているので、「みんゴル」でも紹介しよう。
画像1: プロが好むのは “やさしいウェッジ? ” プロから厚い信頼を誇るカスタムウェッジの魅力を「グラインドスタジオ」都丸和寛氏に聞いた
画像2: プロが好むのは “やさしいウェッジ? ” プロから厚い信頼を誇るカスタムウェッジの魅力を「グラインドスタジオ」都丸和寛氏に聞いた

Profile

都丸和寛

とまる・まさひろ。群馬県出身。プロを目指して研修生になるも、その後大手メーカーに就職。フォーティーンに転職した後、2003年に「グラインドスタジオ」を設立

「人の好みは十人十色。でもプレーを見たり話をすれば欲しいもののイメージが湧く」

研修生時代に感じた疑問「なぜ同じクラブがないのか? 」

高校時代は野球に打ち込み、ゴルフはまったく知らなかったという都丸和寛氏。しかし高校卒業と同時に転機が訪れる。

野球部の後援会長が群馬の有力者でゴルフ場とかも持っていらっしゃって。その方から『都丸、大
学に行って野球をやるのか? 』と聞かれたので『やりません』と答えたところ、『じゃあゴルフをやらないか』と言われて。

少し考えたんですが、ゴルフ場の研修生になってプロを目指すことにしました。研修生時代の師匠のプロは、自分でアイアンを曲げたりと、とにかく道具にこだわる人だったんです。それを見ていたら、自分でいじることでクラブがこんなに変わるんだとは思いましたが、僕自身はショップでやってもらっていましたね。ただ、お店でクラブを見ていると同じモデルでも結構バラつきがあって、同じクラブがないことに気が付いたんです。結局、4年間研修生をしたのですが、プロになることは諦めました。

研修生になるときに、後援会長から『ゴルフをやめるときは俺が世話をするから、それまで頑張れ』と言っていただいていたので、その言葉に甘えて、『プロは無理なのでやめさせていただきます』と伝えに行ったら、『どこに就職したいんだ? 』って。それでクラブを作ることに興味があったので、『ダンロップです』と言って、またお世話をしてもらいました(笑)」

順調にクラブ職人への道を歩み始めたかのように思えたが、実際はなかなか希望の業務に就くことはできなかった。

画像: ゴルフはまったく知らなかったという都丸和寛氏

ゴルフはまったく知らなかったという都丸和寛氏

ダンロップでクラブを作るはずだったが……

「ダンロップスポーツ入社時に希望は伝えていましたが、なかなか空きが出なくて。東京の品川で梱包の作業を2年間くらいやりました。でも、待てど暮らせど空きが出ない。東京にいても家賃が高いし、それならば、と当時は群馬県に営業所があったので、『地元に戻らせてほしい』と要望したら通ったんです。そこで地元に戻り、営業でお店を回るうちに、当時はまだゴルフ工房だった『フォーティーン』と出合いました。そして他ではやっていないカスタムオーダーでクラブを作っていることを知ったんです」

青木瀬令奈や穴井詩が使用するグラインドスタジオ プロト。ほかにも常にピンを刺すことをテーマにし、バックフェースが丸くくり抜かれたような形状のCBウェッジもラインナップする

画像: 青木瀬令奈や穴井詩が使用するグラインドスタジオ プロト

青木瀬令奈や穴井詩が使用するグラインドスタジオ プロト

「ちょうどその頃、どうしてもクラブ作りがやりたくて、久喜にあった『ダンロップゴルフクラブ』に行き、社長に直談判して入社OKの約束を貰って、前の会社に辞表を出して受理されていたんです。ところが、転職する直前に社長さんが急逝され、後任の方は話を聞いていなかったらしく、無職になってしまいました。そこで、気になっていたフォーティーンに問い合わせてみたのですが、『求人は出してない』の一点張り。でも、めげずに3日間、毎日電話して、しまいには工房に押し掛けて直談判。こうしてやっと『アルバイトなら』と雇ってもらえることになりました」

1カ月でひとりで研磨できるまでに

「フォーティーンに入ってすぐに研磨を教えてもらい、1カ月後にはひとりでできるようになりましたね。すると3カ月後には社員にしてもらえました。ただし、研磨といっても、今、僕がやっているのとは違い、ほぼ完成品に近いものから調整していく程度。それでも、すごく忙しかったし、充実していました。そのうち、もう少し大きい形から削り出す注文が増えてきて、プロゴルファーにプロモーションをすることも。プロの意見をいろいろ聞いているうちに、現在の形が何となく浮かんできたんです」

12年間フォーティーンで仕事をして経験を積んだ都丸氏。「T28(テツヤ)」の愛称を持つ原口鉄也に作った都丸氏の「MT CUSTOM」が「MT-28」と命名され、絶大な人気を誇るが、独立することになる。

「フォーティーンが『工房ではなく、メーカーを目指します』って方向転換をしたんです。そのことが独立のきっかけでした。初めは自分のブランドを立ち上げるなんて考えてもいなくて、フォーティーンを使用しているプロのクラブを外注で担当させてもらっていました。そのうちに自分の構想が固まってきたので、1年ほど経ってからグラインドスタジオを始めることにしたんです。それから、もう20年経ちますが、腕がよくなっているのかは自分では分からないですけど、明らかに仕事が早くなっているという自覚はあります。でも相手が何を求めているのかは、いまだにすぐには分からない。やっぱりその人のためにクラブを作るには、コミュニケーションが大切だと思います」

画像: その人のためにクラブを作るには、コミュニケーションが大切だと語る

その人のためにクラブを作るには、コミュニケーションが大切だと語る

やさしいと感じるクラブは人それぞれ

都丸氏が考えるやさしいウェッジとはどんなウェッジなのか。「見た目が少し大きくて、ソールが広くて、グースが入っていて……というのがやさしく見えるとは思いますが、万人に合うやさしいウェッジはないと思っています。そのプレーヤーのスウィングタイプもありますし、打ちたい球も違う。バウンスは大きいほうがいいのか、小さいほうがいいのか、ソール形状の好みにも個人差があります。プロが使っているものは、やはり自分が使いやすいものを選んでいるのだと思います。同じプロでもバウンス6度と少ないものから、最初の立ち上がりだけ20度くらいつけてほしいという注文もあります。

ドライバーなど長いクラブはスピードを出して振ってしまえば、感覚はそれほど変わらない。でも、ゆっくり振るとソールが地面に当たった感覚をどうしても感じてしまう。だからウェッジは自分に合わせるしかないんです」

思った通りの高さが出せるウェッジ

画像: ヘッドを固定して力でネックを曲げていく。この工程でグースネックなども生み出される

ヘッドを固定して力でネックを曲げていく。この工程でグースネックなども生み出される

「僕は“スピンが入る”よりも“寄る”ウェッジのほうがいいと思っています。それに加えて、一番は思った通りの高さが出せること。低く出せば低く、高く上げようとすれば高く出る。そんなクラブを作りたいと思っています」

個人の好みに合わせて削れるように、削る前のクラブの原型を50gほど大きくしているという。その50gを削ることで個人にカスタマイズしていくのだ。

「R&Aのルールがあるので、先にスコアラインをレーザーで刻み、大体の形を整えたものから削っていきますが、その前に自分が使ってみてよかったものや、バウンスやシャフトは同じにしてソール形状の違うものを5本くらい送って、実際に打ってもらいます。そしてどれがよかったかをヒアリングしながら、『もっとこうしたい』という要望も入れ込みながら削っていくんです」

「僕はネックを曲げながら削っていきます。曲げて、削って、また曲げての繰り返し。そうやって削っていくので、最後の形を頭のなかでイメージできていないとできない。削るだけなら誰でもできますが、曲げながら完成品にしていくのは難しいと思っています」

同じように作っても使う人には違って見える

青木瀬令奈をはじめ、プロにも多くの使用者がいるが、まったく同じものは作れないという。

「プロとも話し合って作りますが、実際に打ってもらうと、『確かに私のリクエスト通りなのですが、前のほうがよかった』とか、感覚が合わないことがよくあります。意見を取り入れて自分では“最高のものができた”と思ったものがダメで、“ちょっとこれは違うかな”と思ったものが気に入られることもある。また、青木瀬令奈プロには毎回同じものを3~4本持っていくのですが、そのなかで選ばれるのは1本だけ。同じように作っているはずなのですが、本人には1本ずつちょっと違って見えるらしい」

画像: 削る前のヘッドに完成形の型を重ねると、上下とトウ側に余剰分があることが分かる。この部分を削り出して、世界に1本のクラブを作り上げる

削る前のヘッドに完成形の型を重ねると、上下とトウ側に余剰分があることが分かる。この部分を削り出して、世界に1本のクラブを作り上げる

「光の反射の具合が少し違うのかもしれないし、スコアラインは機械加工で入っているのですが、セッティングしたときに0.2㎜とか若干、傾いている物もある。そうするとスコアラインに合わせて削るしかないので、フェースが閉じて見えたり開いて見えたりするものもあるんです。そういうのも同じように削っても同じように見えない要因なのかもしれません。ただ、30年やっていますが、その違いの感覚は正直、何となくしか僕にはわかりません(笑)」

Q. 夏ラフに強いソール形状は?

バウンスがあるほうが夏ラフには向いている

画像: ソールのリーディングエッジ寄りに溝を入れてフェース面を前に出すことで抜けが良くなる

ソールのリーディングエッジ寄りに溝を入れてフェース面を前に出すことで抜けが良くなる

「よく『抜けがいい』って言いますが、それって思ったところにクラブが跳ねたときのことなんです。思ったところにクラブが跳ねて球に上手くコンタクトできた時が抜けがよく感じる。抜けをよくしたいからと、ソールをどんどん削っていくと地面に刺さりやすくなるし、球の下を抜けることもある。だからプレーヤーが思ったところに跳ねてくれるウェッジが夏ラフにやさしいと思います。ロイヤルコレクションの『BBウェッジ』は、僕が3~4年前に考案して、テストを積んだモデル。ソールのリーディングエッジ寄りに溝を入れてフェース面を前に出すことで、打った時に刃から入っても、すぐ後ろのソールが抵抗となり深く入らずピュッと抜けてくれます。プロトタイプを僕が削って、それを基に鋳造で商品化しました」

PHOTO/Takanori Miki、Akira Kato

※「週刊ゴルフダイジェスト」 2024年6月25日号「日本のクラブ名匠」より一部抜粋

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