ユーティリティは弾道の変化に適合しようと「もがいている」
GD 今日は歴代のユーティリティを引っ張り出してきて、どれぐらい進化しているものなのかを体感してみました。まず最初に打ったのが「プロギア」の『ZOOMiタイプ020』、アイアン型ユーティリティでした。すでに登場から30年がたった元祖ユーティリティとも言える当時男子プロを中心に大ヒットクラブです。
長谷部 打った印象、フィーリングは当時と変わらずユーティリティだけどやさしくはないぞ、という雰囲気がありました。シャフトはM40(SR)にもかかわらずしっかりしていて、重量は60グラム。今でも十分すぎるぐらいのしっかりしたシャフトだったのでビックリしました。
『ZOOMi』は超低重心のアイアン型という画期的なクラブで、当時はこういったことを考えるメーカーがなかった中で出てきたチタンヘッドのユーティリティに斬新さを感じたことを今でも覚えています。弾道もドロ~ンとした重めの球質で、つかまりすぎることもなく、どちらかというと難しいクラブという印象でしたね。
GD 大きな進化がなかったという感じですか?
長谷部 数十年進化がなかったということではなく、『ZOOMi』のようなクラブは、現状では求められていない性能ということなのだと思いますし、ではどんな性能が良かったのか、そして今なら良いのか?それもまだ定まっていないとも言えます。
GD そもそもユーティリティはなんで生まれたのか? を考えると、ロングアイアンが打てないアマチュアが多かった中で、2番、3番、4番アイアンの距離を打てるクラブを作ろうという発想だったと思うんですが……。
長谷部 そうですね。友利勝良プロが、アマチュア向けのユーティリティを使ったという衝撃的なこともありましたけど、その人のパワーに合わせて球の上がりやすいショートウッドではなく、ユーティリティを選んだことは、すごく合理的な考え方でした。
その頃、各社ウッドとアイアンのハイブリッド的なクラブを研究開発した結果が今に続いているんだと思います。ただ、ジャンルとしてはロングアイアンの代わりということが長く定着していたと思います。
GD その前の時代はブレードアイアンしかなく、その後キャビティアイアンが出てスイートエリアがちょっと広がりました。それでもまだまだ難しくて、アマチュアレベルでは球が上がらない、球がつかまらない。
それを解消するためにユーティリティが誕生した。当初はアイアン型ユーティリティで、次に出てきたのがウッド型ユーティリティ。クラブにやさしさを求め出したのがこの頃だったような気がします。
長谷部 そうですね。キャビティでスイートエリアが広がりました。ただ、それだけだとまだティーショットで使うぶんにはいいけど、地ベタから打つには難しい。重心を低く深くしたいという中で、ヘッドのソール幅が広がった。
もっと球上げやすくするために進化したのがウッド型で、さらにアイアン型のグースネックが組み合わさったのが、今のいわゆる“つかまりの良い”ウッド型ユーティリティの走りだと思います。
構えた時に気持ち悪いって思う人がたくさんいた中で、機能面では優れたものが追求されてきたので、ロングアイアンの代わりとしては十分機能していたと思います。
GD ユーティリティはウッド型も含めて、ロフト設定が19度、20度、それぐらいのクラブが多かったように思います。今はもうちょっと下のほうに中心部が降りてきて、19度、20度もあるけども、24度、25度のユーティリティが注目されています。
長谷部 ボールが糸巻きからソリッドに変わり、さらにウレタンカバーでスピン性能が向上したにもかかわらず、ロングショットにおいては飛距離を出すためにスピンを減らすコア設計が増えてきました。
この長い番手ではスピンが減る設計によって、曲がりづらくなってきたこともあるし、ミドルアイアンのロフトが立ってきたことによって、24度、25度が必要になってきたと思います。
GD 今日打ったものは古いものと新しいもの、年代的には色々混ざっていましたが、飛び方の変化みたいなものを感じました?
長谷部 う~ん、基本的には高く打ち上がってスピン量がちょっと減る傾向は、どのユーティリティも同じだった印象です。
アイアンのような高スピンで球がめくり上がるような打球は、ショートウッドでも最近は減りましたけど、 スピンで上がる弾道ではなく、高い打ち出し角で安定して強い球が出ていたことは間違いないですね。
GD 昔の18、19度、ロフトが立っていた時代のユーティリティは、糸巻きボールがまだ残っていたので、球のめくれ上がりを抑えながら200ヤードを狙っていた。
それに対して、今は糸巻きほど過剰なスピンがかからなくなっている代わりに球が上がりやすくなって、棒球のライナー弾道になっている。ロフトが19度、20度から24度、25度に増えても、飛距離は同じということ?
長谷部 飛距離は同じでも点で狙える、上から落とせるという意味では、200ヤードでもピンポイントで狙えるようになってきています。それは、技術よりも機能によってゴルフが変わってきているんだと思います。
全英オープンに行ったとしても、今のボールとクラブの組み合わせなら、そんなに低いライナー弾道で飛ばすことなく、ある程度強い球で狙えるようになっているんじゃないかなと思います。
GD ボールの進化がロフトを増やしているような気がしたんだけど……。
長谷部 ウッド系は間違いなく言えるでしょう。なのでスプーン(3W)が15度じゃなく、16度、17度が好まれるようになったり、4番ウッドが見直されてきたというのもそういった傾向からだと思います。
GD このクラブは何ヤード飛びますよ、といった目安値みたいのがあるじゃないですか。 このクラブは200ヤード飛ぶから3番アイアンだね、っていうようなことがあるとすれば、今日打ったクラブの中には、番手と飛距離がズレているものありました。3番って書いてあるけど、今の時代の5番と変わらないみたいな……。
長谷部 今の5番アイアンと昔の3番ユーティリティのロフト差がなくなったことはあると思いますね。同じロフトで飛距離と弾道を比べると、進化をしているようで実はそんなに変わっていない。現在のプレースタイルとかボールになんとか適合しようと、もがいているような気がします。
GD 番手は後付けですか?
長谷部 いや、後付けじゃないです。番手を決めることによって長さがある程度決まってくるので、後付けってことはないです。
この番手表示にしよう、このロフトにしよう、この長さにしようというのが設計開発当初にあると思うので、よほどのことがない限り、長さで調整したりすることあったとしても、番手とロフトをずらすってことは後からはできないので、スタート地点で全部決めていると思います。
GD 今日打った「PING」の『G25』は、ロフト23度と27度という構成なので、この2本があれば、今課題となっているユーティリティのセットアップを解決するんじゃないの?って思うんです。
でも、この次の後継モデル『G30』からは、現在PINGが採用している4度ピッチの22度、26度、30度になっています。それと『G25』 まではロフト表示だったのが、『G30』からは番手とロフト、どちらも入るようになりました。ここに何か意図するものを感じますか?
長谷部 番手表示は必ず販売店の方から入れてほしいと言われることなので、番手表示なしのロフト表示だけじゃ何番の代わりか説明できないということは昔からあったし、今もあると思います。
ただ、各メーカーで長さが違ったり、目指すところのターゲットイメージが違うので、一概に番手表示が必要なのかって言われると、そうでもないような気がします。ただ、わかりやすく言うと、4番の代わり、3番の代わりとかっていう意味での表示が好まれてしまった結果でしょう。
GD ゴルファーはそう刷り込まれているし、そういうものなのだろうと思っていました。
長谷部 ただ、実際のところ、22度の4番ユーティリティで何ヤード飛ぶのかは、もちろん打ってみないとわからないし、人によって当然違ってきます。
今のところ番定表示とロフト表示の組み合わせについては各メーカーバラバラですから、ここが迷ってしまう要因のひとつかなと思いますね。
ロフト設定については、PINGは4度ピッチを採用していて、テーラーメイドは3度ピッチなので、PINGが22度、26度、30度に対して、テーラーメイドは22度、25度、28度。ここもユーザーを迷わせる要因になっていると思います。