「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

やわらかいRシャフトが「やさしい」とは言えない?

GD 今日は『フジクラ スピーダーNX ブルー』の 5S、5SR、5R、同じブランドのフレックス違いを打ち比べてみて、「フレックスってなんなんだろうか?」というテーマで話したいと思います。一般的に「Sは飛ぶ、Rは飛ばない」というような認識を持っている人が多いと思うんですけど?

長谷部 Sシャフトに憧れるゴルファーとか、Sが自分に合っていると思いたいゴルファーが多い気がします。いきなり余談ですけど、韓国の市場ではRシャフトが売れています。

それって韓国の国民性の中で、自分より目上の人とか上司とか先輩たちがRシャフトを使っていたら、後輩たちも見習ってRシャフトを使うものだという文化があるようです。自分に合っているかどうかよりスペック判断というのがゴルフに根付いている文化の一部と言えるのでしょうか。

そうじゃない限りはやっぱりSシンパとか、S信仰ってあると思うので、その呪縛というか、考え方に長いこと囚われていたのかなっていう気はします。自分自身も含めてですが。

GD SシャフトとRシャフトは、根本的に何が違うんですか?

長谷部 静的な曲げ量(しなり)の違いで、しなりの大きさで分けているのが、S、SR、Rの分け方になります。単純に言えば、重さもそんな変わらないし、トルクも大きく変わらないんだけど、しなり方が違うというのが正解ですね。

GD しなりの量が違うっていうことは、スウィングのタイミングと影響が出てくる?

長谷部 めちゃめちゃ出てくると思います。同じ重さのヘッドをつけた時のしなり幅、しなる量が違うわけですから、大きくしならせて飛ばしたい人はRシャフト、あまりしらせたくない人はSシャフトっていう感覚で選ぶのが正解だと思います。

GD 一般論で言うと、「まだ下手なんだからRシャフトだよ、上手くなったらSシャフトだよ」、そんな考え方があると思います。そうなると、RのほうがSよりもやさしいと思ってしまう人もいると思うんですけど。

長谷部 そういった定説が長くあるし、今もそれが正解だと思われているケースが多いと思うんですけど、しなり量が大きいほうが実はタイミングがとりづらい。もしくはタイミングが合わせにくいっていう弊害もあったりするので、一概にしなるRがやさしいとは言い切れないんじゃないかなとは思います。

その辺を詳しく説明しいてるクラブメーカーとかシャフトメーカーも少ないんですけど、個人の感覚にゆだねられているような気はします。

GD クラブメーカーが出してくるSシャフトとカスタムシャフトのSを比べると、明らかにカスタムシャフトのほうがしっかりしています。クラブメーカーのSシャフトのほうがやわらかく感じます。両者のSの違いは何ですか?

長谷部 S表記に対する憧れとか、思考について一番わかっているのはクラブメーカーなので、必然的にSシャフトが打てる人の許容範囲を広げていってしまったというのが結果論じゃないですかね。

だから、シャフトメーカーが提供するこれまでの基準に沿ったSではちょっと硬すぎるという評価が多ければ、あえて少しやわらかくしたものをS表記にしたかったっていうのがクラブメーカーの戦略だと思います。

GD 靴のサイズだったりしたら、小さいサイズと大きいサイズが売れ残る。真ん中のサイズが売れると聞きますが、ゴルフクラブも生産本数ってあるじゃないですか。その時にSが多くて、SR、Rが少ないというようなことってあるんですか?

長谷部 そのクラブのターゲットによりますね。9.5Sなのか10.5SRなのか、組み合わせで考えたときに、どのスペックが一番売れるのか、目指しているターゲットやブランドイメージの違いで、販売数量を見込んで作っていきます。

でも、なんだかんだ言って最後まで長く売り続けられるは真ん中のスペックなので、そこに厚みを持たせる傾向はあると思います。

GD そうするとSR?

長谷部 SRは割と多めに発注をする傾向がありますよね。なんでかと言うと、SRだったら販売上を上手く説明できる。言い方は悪いですけど、「このSRはS寄りなんですよ」みたいな言い方だったり、「十分打てるやさしさがありますよ」、みたいな言い訳ができちゃうのがSRになります。

GD 純正のSシャフトの傾向とすると、ナイスショットするとつかまりすぎて、逆にカスタムシャフトはナイスショットしないと真っすぐ飛ばない感じがするんですけど……。

長谷部 純正シャフトがつかまる傾向は確かにあります。それはオフセンターヒットの時の許容範囲がカスタムシャフトより広いからだと思います。

センターヒットとオフセンターヒットの差が小さく、安定するようになっています。それはトルク値が影響していてカスタムシャフトの多くが低トルクで作られているので、どうしてもオフセンターヒットの時のミスが厳しく出やすい。

その点、純正シャフトは緩く作られているので、車のハンドルの遊びのようにトルクが働いてくれるのでオフセンターヒットでも真っすぐ飛びやすい傾向はあると思います。

GD それは最大公約数を狙って作っているからそうなる?

長谷部 そうですね。最大飛距離で飛べばいいというカスタムシャフトではなくて、あくまでもオフセンターヒットでのやさしさを追求しているのがクラブ設計の根底にあります。ヘッドとシャフトのトータルの組み合わせなのでオリジナルシャフトを作るときは、オフセンターヒットの時にどれだけ影響するのかをテストします。

最近は減りましたけど、このヘッドに合う一番のシャフトは、クラブメーカーが設計している、もしくは設計委託したオリジナルシャフトが良いはずなんですけどね。

GD そういうものが最近減ってきているというのは、コラボシャフトが増えてきていることも影響していそうですね。ヘッドとシャフトのマッチングがしっかりやれているのかって言ったら、どちらかというと少しカスタム系に寄っていて、最大公約数的な昔ながらのクラブ全体的な性能というとこまでは行ってないかもしれない?

長谷部 そうですね。この10年間の動きの中で、アメリカブランドのクラブがすごく売れています。そうすると開発はアメリカなので、日本からのリクエストを100パーセント全部飲んでくれるわけじゃない。

だから、シャフトのテストに関しても、どこまでテストがきちんとできているかっていうと、それは日本のメーカーのほうが間違いなく上で、ヘッドに合わせたシャフト設計、開発に時間をかけてやっているはずです。

でも、市場の中で外ブラのマーケティングが上手だったのが、いわゆるカスタムシャフトメーカーをうまく取り入れたところでのダブルネームのシャフト。

それが市場的に人気になっていくと完全にゴルファーに向けたやさしさ、もしくは打ちやすいシャフトの設計というのが日本のメーカーの中でもおざなりになってしまっていて、そこに時間と労力をかけてやるよりは、ブランディングで付加価値の高そうなものを取り入れてしまったほうがマーケティング上いいんじゃないかいう判断が、ヘッドにマッチしたオリジナルシャフトの開発が止まってしまっている要因なのかなという気がします。

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