「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

クラブ契約は一流プロの証だったはず

GD 最近クラブ契約フリーというプロが多くなってきています。これはメーカーがプロと契約しなくなっているのか? それとも使いたいクラブを使いたいと言っているプロが増えたのか? クラブメーカーと契約することは、ある意味で一流プロの証みたいなところがありました。しかし、最近は有名プロでもクラブ契約を結ばないプロが増えてきています。今日はこの辺の事情を聞きたいと思います。

長谷部 自分は契約プロの活躍とともにクラブが売れるっていう時代を過ごしてきたので、プロの恩恵を一番感じてきました。1990年代は当たり前のようにメーカーとプロとの契約があり、プロが契約しているメーカーのグッズを使うことによって話題にもなりました。

その後PGAツアーの情報が日本に入ってくるようになって、それと重なるように日本のプロの影響力が小さくなったような気がするんですよね。PGAツアーで活躍していた丸山茂樹プロの後は松山英樹プロまで空いてしまうんですけど、そのような状況の中で日本の男子ツアーに影響力のあるプロが出にくかったということも背景にあると思います。

1990年代、クラブは進化しているんですが、同じブランドで良いものを作って2年に1回ぐらいのペースで出してきた。それが今は毎年のように新製品が出てくるようになって、メーカーの戦略上、前作とはちょっと違いますよ、というモデルを作らざるを得ない商品サイクルになってきた。そうなった時に、プロの影響力を必要とするブランドと、プロの影響力を必要としないブランドが共存し、商品サイクルの早さについてこられないプロもかなり出てきているんだと思います。

GD メーカーと契約しているプロはほぼほぼ新製品を使う傾向にあると思うんですけど、自分が使いたいものを使えるのか、それとも新しいものが出たからそれを使ってくれという力が働くのか。その辺はどうなんですかね。どっちも選択できる状況にはあるとは思うんですけど……。

長谷部 海外のプロの契約書を見たわけではないので簡単には言えないんですけど、日本のプロの契約書を見る限りで言うと、新製品を使いなさいという条文は入ってなかったです。

キャディバッグに入れる14本のうちの何本までをそのメーカーのブランドを使うという縛りでしかなくて、新しいドライバーの使用を必須とする契約もなかなか珍しく、14本中11本だったり10本という本数だったりするケースが多い中で、パターとかウェッジはフリーの状態のものを残しておくのが普通でした。

けっして新製品を必ず使いなさいという縛りはなく、古いモデルを使っても契約上違反ではないというものが多かったですね。

ミネベアミツミレディスでツアー3勝目を挙げた川﨑春花は、ウッド、ユーティリティ、アイアン、ウェッジ、4メーカーのクラブが混在する。ウッドは『テーラーメイド SIMグローレ』、UTは『スリクソン ZX MkⅡ』、アイアンは『ミズノプロ 719』、ウェッジは『キャロウェイ ジョーズRAW』※クラブ撮影はダイキンオーキッドレディス練習日のため15本入っています

GD 契約プロだから新しいものを使っているのかな? とうがった見方をする人もいると思うんですが、必ずしもそうではなくて本人が納得して使っているというのが正解?

長谷部 もちろん正解です。1年契約でクラブ契約するケースってあんまりなくて、3年なら3年、長期の契約の中で自分に合うものを見つけていくといプロも多いですし、逆に信頼できるサポート、自分が悩んだとき不調になったときにいろんなものを試したいという時には、クラブ契約があったほうが間違いなく便利だし、相談相手になってもらえるはずなので、そういったメリットもあったはずです。

あと試合会場でのメンテナンス。クラブフリーの選手が契約するツアーバス(工房サービス)もあるんですけど、各メーカーがツアーバスを出している中では、ちょっとした相談、硬さ、重さ、シャフトの長さも含めた調整をしてもらえるっていうメリットは契約選手にはあります。

GD 契約フリーのプロをサポートするサービスもあるんですね。最近の傾向をみると有名プロほど契約フリーになって、契約フリーになって良かったという声を聞きます。有名プロになれば、自分のイメージしたクラブを昔は作ってくれたはずですが、今は作ってくれないの? という風に見えるんですけど?

長谷部 パーシモンとか、軟鉄のアイアンをただ単に削ればよかった時代からは、金型とか、重心位置の変更とか、クラブ作りが複雑になった結果、コストもかなりかかるようになっています。

ですから、ひとりのプロに対して何か特別なことをしようと思うと本当に1つのプロジェクトになってしまうし、自分もかつて世界ナンバーワンの選手と最終契約の直前まで行ったことがあるんですけど、この選手とクラブ作りをしても日本のマーケット上ではビジネスにならないからお断りをしてしまったケースがあります。

それだけ開発コストがかかるので、有名プロだから、活躍しているからと言ってその人のために良いものを作ったから儲かるビジネスになるかっていうと、それはもう難しい時代になっているというのがありますよね。

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