「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

有名プロになるほどクラブ契約フリーのメリットは大きい?

GD 昔クラブは個体で考えられていたじゃないですか。今は個体では考えられないから、クラブが合わないとなると契約していると数年間それを我慢して使うことになる。クラブに自分を合わせなきゃいけないってことになると、結構厳しいことになりますよね。

長谷部 プロが長く活躍していくうえで、体調だとかスウィングだとかによってクラブを合わせていくのが本来あるべき姿だと思うんですけど、この新しいクラブを使わなきゃいけないからこういうスウィングにしなきゃいけないってなると、もう本末転倒だと思うんですよね。クラブ契約フリーっていうのが正しい言い方かどうかは別として、自分なりに良いものをちゃんと選ぶようになったことは、健全な状態だと思います。

GD 大昔のこと言ったら、クラブ契約をしてるプロなんていなかったわけです。中村寅吉さんの時代まで遡れば、中村寅吉さんはクラブメーカー(サンケイゴルフ)を持っていたようなものじゃないですか。ベン・ホーガンにしたって、ジャック・ニクラスにしたって自分が使うクラブを作るためにクラブメーカーを起こしてしまった。やっていることの次元がちょっと違いますよね。

長谷部 クラブを作る専門家の集団をどういう風に見ていくかってことだと思うんですけど、それとは別に商業的にプロモデルだけでは商売にならないっていうことに気づきはじめた時に、「キャロウェイ」をはじめ各メーカーがアマチュア向けのクラブを積極的に作りはじめた。

アマチュアゴルファーにとってみれば、クラブメーカーがしっかり研究開発して、やさしいクラブを作る動きは良いことでしょう。ただ、そのビジネスを支えるプロゴルファーの活躍っていうのがリンクしなくなってしまっているということだと思うんですよね。

プロゴルファーに求められる性能と使い心地の良さが、アマチュアとかけ離れてしまっているので、それをどうバランスを取るのか、いま狭間に来ているような気がします。

GD それはドライバーがクラブ全体からちょっと独立しているためにセット組では考えにくくなっている。ドライバーはいいんだけどアイアンがな? とか、アイアンはいいんだけどドライバーがな? ってことが起きているってことですよね。

長谷部 そうですね。昔、「テーラーメイド」がUSPGAツアーで実施したのがドライバー1本契約、ドライバー使用者のカウントを増やしたりしたことがありました。『300シリーズ』でしたっけね、そういう時がありました。

「タイトリスト」も『975D』の時にドライバー契約をやって、クラブのシェアを取ろうとしたっていうのは有名な話ですけど、1つ1つメーカーが売りたい商品のプロモーション活動としてプロと契約するのは決して悪いことじゃないと思うんですよね。だけど、フルセットの契約でブランドのアンバサダーとしてしばるのは、非常に難しくなってきてるような気がします。

5月のミズノオープンで優勝し、全英オープン出場を決めた木下稜介。長く「ブリヂストン」契約だったが、現在はクラブ契約フリー。ドライバーは「キャロウェイ」の2022年モデル『ローグST MAX LS』。3Wはテーラーメイド『初代ステルス』で、これも2022年モデル。5Wは5年ぐらい使っているというブリヂストンの『ツアーB XD-Fフェアウェイ』。アイアン型の3Uは『ツアーB Xハイブリッド』。アイアンは4Iから9Iがブリヂストンの『221CB』、PWだけ『Bリミテッド 220MB』という組み合わせ。ウェッジはブリヂストンの『Xウェッジ(52度)』と『ボーケイデザイン ウェッジワークス(58.5度)』

GD クラブの開発、クラブの進化を考えると、プロからのフィードバックって大きいじゃないですか。今の話を聞いているとフィードバックがないように聞こえますが?

長谷部 なくはないですよ、絶対に。特にボールなんかはそうですけど、プロのフィードバックがあるから細かい人間の感性でしかわからない違いを具現化したりすることができるというメリットがあります。ただクラブに関して言うと、もう微調整の幅でなんとかなってしまうこともあるとすると、その微調整で済ませているケースもあるし、その微調整に満足しない人もいるでしょうね。

GD 私が聞いた話で言えば、伊澤利光が「ブリヂストン」との契約を解消したのは、ヘッドスピード50m/s以上が満足するクラブをブリヂストンは作れない。だから「タイトリスト」を使うようになったということを聞いたことがあります。

長谷部 作れる作れないではなく、その会社の考え方だと思うので、それとプロとの希望のマッチングだと思います。伊澤プロは「タイトリスト」とのマッチングがいいっていうことで選んだ。でも、その背景にあるのがアメリカで活躍したい、アメリカのシェアの高いブランドに信頼を寄せたっていうことだけのような気がしますけど。

逆にメーカーとのコミュニケーションとビジネスが上手くいったケースを言えば尾崎プロ兄弟もそうですし、丸山プロもそうだった。コミュニケーションとして上手くいっていたことを考えると、自分の意見をどこでまで製品に反映させて、使うかという責任感との兼ね合いもあると思います。

GD それってパーソナルモデルがあった時代の話?

長谷部 そうです。だから、プロがどこまでフィードバックを与えて、そのモデルに対してしっかり使えるかっていうと、プロだって不安があるわけです。

注文を出して3カ月後に上がってきたクラブが、もう自分の求めているモノと違うこともあるわけです。開発スピードが上がったといえ、1カ月後では自分の求めている、今すぐ欲しいていうものが変わっていることがあります。

プロが使えるモデル数がたくさんあって、在庫がたくさんあって、その中から自由に選べる環境に変えたかったというのは、プロとしては賢い選択だと思います。

GD パーソナルモデルが減った背景にはそういったこともあるんですね。

長谷部 パーソナルモデルを作るメリットは自分の思い通りのクラブになる。思い通りになったものを作った暁には、出来上がったときにそれを使ってもらいたいのがメーカーの本音です。

ジャンボさんはそれが出来た人だし、意見や要望もそんなにブレなかった。でも、アメリカに参戦していく若手プロはアメリカでの環境や周囲の影響で様々に変化があるので、常に求めることが変わる。それに順応しなければいけないし、本人も責任を持って言わなければいけない。それはなかなか難しいものがあります。

GD すぐ作ってよ、でも使えない、そうなるともう我がままにしか聞こえません。

長谷部 大なり小なりどのメーカーもそういったことを経験していると思います。現場での声を反映してモノを作ったんだけど、実際プロの活躍と時間経過とともに意見が変わる。これに対して各メーカーが疲弊することはあったと思うし、自分も苦労しました。そこまでして費やした開発コストがビジネス上で健全なのかということになると思うんですよね。

でも担当者としては、プロの意見で新しいクラブの開発はワクワクしますし、その後のクラブ変遷に足跡を残したいと思うのが開発に関わる者の醍醐味でもあります。

GD アイアンは研磨とか微調整である程度カバーできたとしても、ウッド系になると設計が入ってくるから、なかなかそう簡単にはいかない。

長谷部 1つのモデルで重心位置を変えることを20年ぐらい前に自分もやりましたけど、量産できないんですよ、試作品は作れても。

テスト用でウェイトを3カ所ぐらい変えて、重心位置大きく変えて、結果こうなりますよね……。だから、あなたに合う重心位置はこうですよねっていう風に説明納得していただくんですけど、それを量産化できるかって言ったら当時はできないので、また別のものを作るって話になるんです。

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