「タイトリスト」、「スリクソン」……第3のツアーボールが必要になった理由
GD 『プロV1』は『レフトダッシュ』、「スリクソン」は『Zスター ダイヤモンド』を出してきて、ツアー系ボールが3つになる動きがあります。もし一部のゴルファーに対応するためのものなら、プロトタイプでいいような気がしますが?
長谷部 プロトタイプで対応していたと思うんですけど、メーカー同士の争いになったとき、『ツアーB』は『プロV1』に対して、『プロV1』は競合に対してどう対抗するかってなった時に、今の自分たちのスタンスを維持しつつ、そこにぶつけていくものを作る戦略だと思うので、2対2で戦っているはずが若干ズレてるところで戦っているので、ちゃんと真っ向勝負できるものを出しているということなんじゃないですかね。多様化するニーズに合わせて製品ラインアップの見直しを図るのは必然かと思います。
GD 「タイトリスト」は『レフトダッシュ』があって、「スリクソン」は『ダイヤモンド』があって、「ブリヂストン」はまだ出てないですよね。
長谷部 出る可能性はありますよね。『JGR』は質が全然違うディスタンス系のボールですが、『JGR』を進化改良させて「ツアーBなんとか」になる可能性はあると思うし、むしろそっちのほうが戦略上いいんであれば、広告投資効果とかも含めてそういうことも考えられます。
その昔、1種類だったツアーボールがどこのメーカーも2種類出してきた。ボールのラインアップ見直しの移行期として『プロV1』が3種類になったことで、今後3種類になってくんじゃないですかね。
GD 選ぶ側からすると迷いますよね。第3のツアーボールは構造が違う、性能が違う。フィーリング論で言われるとアマチュアの中でその違いがわかる人がどれだけいるのか。まだ2ピースだ、3ピースだ、4ピースだって言われたほうが、なんとなく性能を想像することができましたが、フィーリングの正解になるとお手上げです。
長谷部 ボールの性能で大切なのはセンターコアの設計の素材開発で中央に置かれるのが1番大きなセンターコアで、ヘッドスピードによって潰れ方が変わることでターゲットに合わせて最適なパフォーマンスを出せるようになっていればいいんですけど、それがなかなか難しいからセンターの外側で、つぶれ具合を調整するための層を増やしています。
だから、最外周とインナーカバーを含めたコアの設計力がある会社が強いく多層構造にしなくても飛ばせる、止まって、アイアンでもフィーリングがいいものを作れるはずなんですけど、層が増えればバラつく可能性が高くなるんで、プレー中に交換できる、またはしなければならない機会があることを考えると均一性が求められるボールとしてどっちが有利なの? って言われたら、3ピースが良いと思っています。
あともう1つは、マーケティングとしては「3つの中から選びなさい」って言われると迷うけど、「1種類、これがおすすめですよ」って言われたほうが消費者は買いやすいので、マーケティング上ここをどう考えるかです。「おすすめはこれで全部カバーできています」と、強く言えるかどうか。それとも「どっちか選んでください」というやり方を続けるのか。この部分は岐路に立っているのかなと思います。
GD 3つあるうちの中からひとつ選びなさいというのは、けっこう難しいですね。まだ2つの内のどっちのほうがいい。さらに言えば、1つになればメーカーの違いがもっと感じられて面白いように思います。
長谷部 ひとつのボールで勝負する自信があるかどうかですよね。昔は1個しかなかったし、1個でよかった。
GD でも実際は、飛び系なのか、スピン系なのか、メーカーによって分かれていた。まだその頃は、「スリクソンよりブリヂストンのほうが飛ぶ」とか、その逆に今度の「ブリヂストンは飛ぶ」とか、そういったことがあったじゃないですか。
物によって飛ぶ、止まるというのがあったから、選ぶ楽しさがあったけど今はもうどっちも飛ぶし止まる。何を基準にして選んでいいのって言ったら、もうイメージでしかなく、好き嫌いの話になっています。
長谷部 大きく変わろうとしているのが今回の「テーラーメイド」の『TP5』で、打音が違うという説明です。「初速が落ちないのにソフトな音がしますよ」という新しいコンセプト。もともとボールメーカーではないクラブ屋さんのテーラーメイドが打ち出したマーケティングは面白いと思います。
何の基準で選ばせるかっていうことを明確にしない限り、スピン系、ディスタンス系ですというのは言いづらくなるぐらいパフォーマンスがきっ抗しているということですよね。普通のアマチュアがアプローチで新しい『ツアーB』のXとXS打ち比べてどっちがいいですかって言われた時にどこまでわかるのか。
GD 『ツアーB』が出た手の頃、ブリヂストンの試打でXとXSは違うでしょ? と言われ時に、「止まると言えば止まるけど、飛ぶと言えばとば飛ぶような気がするけど」っていうレベルの話で明確な差は正直わかりませんでした。実際にアマチュアは、みんなそういうふうに思って選んでいるのかもと思います。
長谷部 「自分はアプローチでスピンが欲しいから、やっぱりスピン系だ」って明確なポリシーで選んでいる人はいると思います。安定したドライバーが欲しいから『プロV1x』、または『レフトラッシュ』という選び方になっていると思うので、自分のプレースタイルの肝となる番手のメリットで選ぶしかないのかな。
GD ボールのテストって正確にできるかといった、なかなかメディアレベルではできないんですよ。 基準ボールを設けて、その基準ボールよりも飛ぶのか、基準ボールよりブレるのか。マシーンテストだとそういった基準ボールに対してどうかになるし、ヒューマンテストだとフィーリングの好き嫌いが入って来るので、単純に飛ぶボール、止まるボールを数値で可視化するのは難しい。
長谷部 ボールがクラブほど簡単じゃないのは、素材とコアの軟らかさ、硬さ、反発力みたいな話が曖昧なのと、開発的にもメーカーは詳しいデータは出したくない。 そういったところは説明しづらいので、素材がウレタンですというのは非常にわかりやすいけど、じゃあキャストウレタンとかTPUって言われたら、何それ? となって一歩深く入ると途端に難しくなるのがボールの世界です。
ウレタンでしょ? ゴムじゃないよね? みたいな、そういう話はゴルファーに伝わりにくい。難しいのでなかなかメリットを詳しく説明できないから、コスパボールが売れている状態を生んでいると思います。ボールの性能を体感できないからこれでいいやと思わせてしまっている可能性はあります。
GD 決して安いボールが安く見えないですしね。
長谷部 ユニクロを着ていても恥ずかしくないし、機能性もいいし、なんなら部屋着じゃなくて外にも着ていきますという人が今どんどん増えています。それと同じようにコストパフォーマンスボールでもシェアを広めていけば恥ずかしくないっていう状態になりつつあると言うことです。
GD ゴルフボールもファストファッション化が始まるっていうことですかね。
長谷部 それは言い過ぎだと思いますが、一定レベルのパフォーマンスで十分という言い方はすごい嫌なんですけど、これで十分だという人が増えていることは間違いなくて、そこで今売れているのが『本間ゴルフ D1』と『ツアーステージ エキストラディスタンス』ということになります。
GD ゴルフに対する考え方、見方、こだわり方というのが、ちょっと変わったのかもしれませんね。
長谷部 クラブは毎年新しいテーマがあって、チャレンジしてくるメーカーがある。でもボールってそれが見えづらいから、2年に1回のモデルチェンジがあってもあまり変わらないように見えてしまう。
もうある一定の基準を超えているので、知らないブランドじゃない限りは、安心して使えるっていう状態になっていますよね。
モデルチェンジする必要があるんですか? という作り手の都合を無視して言えば変わらない定番があってもいいんじゃないの? とも思います。
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