重苦しい時間帯があった。12番で短いパーパットを外しこの日最初のボギーを叩いてから一気に歯車が狂い始める。
14番でセカンドショットを池に落としボギー。15番では2打目がグリーン左奥の厄介なラフにつかまりダブルボギー。フロント9終了時点で5打あったリードをわずか4ホールで失い、逆に昨年の年間王者ビクトール・ホブランに1打リードを許す展開になった。
チャンスの16番(パー5)でバーディを奪えず万事休すかと思われた。
しかし2週間前パリ五輪で銅メダルを首にかけたマスターズチャンピオンはひと味違う。17番で残り168ヤードを8メートルに乗せるとそれをねじ込みガッツポーズ。
起死回生のバーディで再び1打リードを奪うと18番では池ギリギリをアグレッシブに攻めて2メートル弱に乗せバーディフィニッシュ。悪夢の4ホールを帳消しにする2連続バーディで後続に2打差をつけ勝ち切った。
大量にリードしていただけに「なかなかアグレッシブにいきづらかった」と本人。世界ナンバーのスコッティ・シェフラーや今季メジャー2勝のザンダー・シャウフェレが着実にスコアを伸ばし「15アンダー、16アンダーには来るだろう」と予想していたがいざそれが現実になると頭と体がバラバラになった。
それでも上がり2ホールは「あまり考えず」プレーして2連続バーディで締めくくった。逆境を乗り越え逃げ切るという新境地を開拓した松山は改めて世界に底力を見せつけた。
エースキャディ早藤将太が経由地ロンドンでパスポートを盗まれ日本への帰国を余儀なくされた。急遽代役に抜擢された田渕大賀(久常涼のキャディ)は大役が決まってから「毎晩眠れなかった」というほど緊張していた。
それでも立派に役目を果たし「僕はただ横を歩いていただけ。一番近くでギャラリーをさせてもらいました」「本当に凄くて非の打ちどころがないゴルフでした」と謙遜しつつ勝利を喜んだ。
デビューから10年。プレーオフシリーズでの優勝はいくら頑張っても手に入らなかった。それでも前を向き続き「やっと」勝つことができた。これは松山にとってただの1勝ではない。昨年初めてトップ30入りを逃し最終戦に進出できなかった悔しさ。プレーオフシリーズで勝ちたいという強い気持ち。それらすべてを合わせた思いがこもった貴重な勝利。
これで2000ポイントを獲得しフェデックスカップポイントランクはシェフラー、シャウフェレに次ぐ3位に浮上。残り2試合で十分年間王者を狙える位置につけた。
銅メダルからの勢いに乗る松山には最終戦のツアー選手権に向けまた何かやってくれそうな雰囲気が漂っている。ロンドンで財布の盗難被害に遭ったが、すぐに360万ドル(約5億4千万円)を稼いだのだから災い転じて福となす?