1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 1992年の杉原輝雄

1992年の杉原輝雄

ベタ足が正確への指標だ

ーー「体重は足裏全体でうけとめる、ベタ足や。ゴルフスウィングに右足のケリなんて存在せえへんで」

スウィングで体重をどこにかけるかという議論は、今もあるでしょう。やれ踵にかけるべきだという人も、反対に爪先にかけろという人もいるでしょう。ボクはそのどっちにも組みしません。足裏全体でうけとめる、つまりベタ足で、というのが持論だからです。

これらのことをちょっと検証してみましょう。

まず体重を踵にかけるということやが、その論拠はどこにあるのやろか。これは多分、前につんのめることを防ぐためにいわれたことやないかと思います。しかしゴルフスウィングには体を安定させるためと、もうひとつ力強さも必要とします。ところが踵にはそういう力強さを作り出す要素といったものはありません。

では爪先体重はどうやろか。ゴルフはボクシング、短距離走、相撲などとは根本的に違います。それらの競技では爪先でのケリ――それも両足指の内側――が重要なわけです。ところがゴルフでは爪先のケリは存在しませんのや。右足爪先のケリは目標方向への体のつんのめりを引き起こすだけです。

ダウンからインパクトへの移行は右膝を中心として右足の、左足サイドへ行われるべきで、決して右足爪先のケリによってではありませんのや。

体重は爪先でもなく踵でもなく、足裏全体でうけとめると認識してください。これをスウィングの中で表現するなら、ベタ足打法といってもいいと思います。ベタ足こそ、ボールを正確にあやつるカギと思うてください。

長尺ドライバーで寿命をのばす

ーー「長尺ドライバーは高いフェードで攻めたいから、アップライトに上げ、ボール位置も左足親指の延長線上や」

ボクが長くツアーで現役を続けてこられた要素の一つに、長尺ドライバーの存在があります。長尺ドライバーがツアー現役での寿命をのばしてくれた救世主やと思っています。

昭和41年頃はスチールシャフトで43インチ、その5年後に0.5インチのばし43.5インチ。61年に44インチ。平成2年、カーボンシャフトで45インチ、翌年45.5インチ。そこから2年ごとに半インチ~1インチの範囲でのばしていって平成10年には48インチにまでなりました。

シャフトがカーボン、ヘッドがチタンと用具の進化でなりえたことです。メーカーさんには感謝してます。

これだけ長くなると、打ち方にも当然変化が現れてきます。シャフトが長くなると、スウィングもアーク(円弧)がフラットになってきてフックしがちになります。長くなれば円弧も大きくなって飛距離(270ヤード)もでますので、曲がったとき(フック)も大きな曲がりになる。飛んだけど曲がっては何にもなりません。

だから、可能なかぎりアップライトに上げて、スウィングテンポもリズムも一段ゆっくりとしました。このゆっくりというのは個人差があるやろが、ボクのなかでは、トップで一拍おくぐらいの“ゆっくり”です。

それとボールの位置は、左足親指の延長線上。46インチくらいまでは左足踵の延長線上だったのが、ボール2個分ほど左へ移動しました。これはフェードを打つための工夫のゆえです。

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

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