PGAツアー選手が「52、56、60」にする理由
GD ウェッジの組み合わせについて伺います。ウェッジが単品化したことで、様々な組み合わせが考えられるようになりました。しかし、イメージ通りにきちんと機能しているかと言ったら、そうでもないような声を聞きます。PGAツアーで「52、56、60」という組み合わせが流行っていますが、この組み合わせから何か見えてくるものはありますか?
長谷部 PGAツアーのウェッジ選びは、「60度基準」が多いと自分は解釈しています。アメリカはグリーン周りが難しい、芝生も複雑な環境にあることからも、日本の基準となるサンドウェッジというよりは、ロブウェッジという発想があるはずです。ローバウンスのロフトの多いもので対応して、ロブショットでグリーンを攻略するのがPGAツアー選手の目的だと思っています。
60度を基準にして、その上はロフト4度差の56度が入ってきてきます。このクラブは通常のバンカーでも使うし、アプローチでも使う両用です。さらにプラス4度の52度を入れることで、4度ピッチを守っているんだろうと考えられます。そうするとピッチングウェッジが48度になる。これが、PGAツアーのセッティングだと解釈しています。
GD 日本に比べてアメリカのグリーン周りは複雑で、アプローチに対してのバリエーションが非常に多く求められるフィールドだと思います。「52、56、60」というのは、フルショット以外のアプローチで使おうとした場合、52度は足がちょっと出る、60度は高さで止める、56度はオールマイティー。バンカーでも使うし、普通のアプローチでも使うとなった時に、この3本があれば、あらゆる場面に対応できるということで、こういうセッティングになった。
長谷部 そうですね。先だって松山英樹選手がかなりバウンスの少ないウェッジを投入したことが記事になっていましたけど、60度というロフトは変えていません。バウンス角をいじりながら、60度のバウンスバリエーションを持つ。このような現象は女子プロでも起きていて、日本の選手がPGAツアー、LPGAツアーに行った際に必ずぶち当たる壁だと思っています。
GD アマチュアの基本は、「52、58」の2本、または「52、56」の2本がベースになっていると思うんですけど、そもそも52度のウェッジが誕生した経緯はジャンボ尾崎が「PS」を作ったことが発端だったと思います。
長谷部 その通りで、ジャンボさんのアイアンは当時のロフトとしては立っていて、ピッチングウェッジが48度。標準的なサンドウェッジのロフトが57度とか56度だとすると、かなりロフト差が空いてしまうところに「PS」という名称のウェッジを投入して使い始めたことから始まります。
もう30年以上前の話ですけど、当時はそれがトレンドとなりました。今はアプローチウェッジとか、ギャップウェッジと呼びますが、当時は「PS」というのが標準的な言い方で、日本のセット構成は、「PW、PS、SW」が一時標準化されましたよね。
GD 「PW、PS、SW」の前の時代は、ピッチングウェッジが50度で、日本だけの流行だと言われている『リンクスマスターモデル』のサンドウェッジが57度。そこに7度の差があって、その間にアプローチ専用クラブとか、バンカー専用クラブといった、ロフト構成とは関係なく、もう1本スペシャルウェッジを入れて3本構成という考え方がありました。
長谷部 数は多くなかったと思うんですけど、『リンクスマスターモデル』のようなスペシャルなウェッジとともに、同じようなロフトの近いフルショットのできるウェッジがあったような気はします。
ただ、一般化されなかったのは、そこまで打ち分ける必要があったのかというアマチュアゴルファーのニーズと、理屈的にロスト差がそんなに少ないものをアマチュアが打ちこなせないということもあったと思うんです。
GD ゴルフクラブの長い歴史の中で、現代的な14本のセッティングになる前は、場面、場面に特化した専用クラブがありました。ラフ専用、バンカー専用、目玉のバンカー専用……、そのように特定のショットに特化したクラブが増えた結果、本数制限がなかった時代は何十本もキャディバッグに入れていたことがあります。
その後、本数制限が掛けられ、時代を経て今の「52、58」、「52、56」に行きついたわけですが、5~6年前から、「50、54、58」という4度ピッチが、日本の女子プロを中心に流行り出しました。